カモミールnetマガジン

2015年4月号

◆ 目次 ◆ ———————————————————————-

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 子どもたちが自律的な学習者になるために -アクティブ・ラーニングの勧め-
(4)今月のおすすめ書籍

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◇ 所長だより ◇

教師の「私的言語」による授業研究
教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月は、授業研究法の最終回として、「教師の『私的言語』による授業研究」を取り上げます。

 藤岡完治らは、教師は単なる「教える人」であるばかりでなく、「実践の研究者」であるという視点にたって、教師は自分の授業を語る言語(=「私的言語」)をもつ必要があることを強調しています。それが、「カード構造化法」とよばれる授業研究法です。そして、「教師の成長(人間的成長と職能成長)は「私的言語」の洗練と解釈力の高まりとして経験される」と、藤岡は考えています。

 なお、「カード構造化法」は、次の手順と方法で行われます。

(1)現象カードの記述を行います。そこでは、ちょうど1枚の写真やVTRの一画面を見るような感じで、気になっている授業現象を視覚化して考えます。その際、小学校高学年に伝わるような抽象度の低い言語表現を心がけます。

(2)現象カードの記述の明確化・焦点化を行います。

(3)関連カード(私的言語)による表現を行います。なお、当該の現象を記述した「現象カード」に対して、次々に思い浮かぶことを書き落としたカードを「関連カード」と呼んでいます。

(4)関連カードを分類し、ラベリングを行います。まず、関連カードをシャッフルした後、カード全体を二つの山に並べ換えます。さらに、分けられた山の命名をします。

(5)ラベリングされた山(関連カード)の関係構造図(ツリー)を作成します。

 このようにして作成されたカード構造図は、授業者の「私的言語」を反映したものとなります。まさに、「それは、教師が自分の知覚や意思決定の特徴に気づいたり、自分の授業に潜んでいる潜在構造を発見する」ことでもあります。

(文献)藤岡完治(2000)『関わることへの意志―教育の根源―』国土社

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◇ 教育時事アラカルト ◇

保護者暴力と向き合う
教職教育開発センター教授 坂田 仰

 患者やその家族から医療スタッフに加えられる暴言,暴力。いわゆるモンスターペイシェント問題がクローズアップされるようになってから,ずいぶんと時間が経過した。ここ数年,学校現場でも同様の問題が目立つようになっている。

 報道によれば,2014(平成26)年の夏,福岡県下の公立小学校で,子どもへの指導に問題がある等とし,校長から現金を脅し取った保護者が逮捕されるという事件が起きている。また,2月には,指導に腹を立てた保護者が,教員を負傷させ,傷害容疑で起訴された結果,懲役一年六月,執行猶予五年の判決が下されたという。

では,学校側はどのような対応を取るべきであろうか。具体的に暴力行為等が発生した場合,医療機関では,「直ちに警察に通報する」ことが推奨されている(例えば,厚生労働省「医療機関における安全管理体制について(院内で発生する乳児連れ去りや盗難等の被害及び職員への暴力被害への取り組みに関して)」平成18年9月25日付医政総発第0925001号等)。だが,学校ではそうはいかない。警察への通報が子どもに与える影響を考えるからである。

 保護者が教員に暴言を吐いたり,暴力を振るったりした場合,事実であれば,それは紛れもなく犯罪である。しかし,これまで学校現場は,関係性を重視するあまり,それを暴言,暴力とは認識しようとせず,看過してきた部分がある。「保護者は常に学校と協力し,児童・生徒の幸せを願っている。だから,暴言や暴力はその思いが高ぶっただけに過ぎない」。このような固定観念が,保護者の行動をエスカレートさせていることを見逃してはならない。

「官吏又は公吏は,その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは,告発をしなければならない」(刑事訴訟法239条2項)。公立学校の教員は,ここでいう「公吏」にあたる。増加傾向にある保護者暴力と向き合うためには,刑事訴訟法の規定を厳格に運用することも考えるべきなのかもしれない。

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◇ 子どもたちが自律的な学習者になるために -アクティブ・ラーニングの勧め-(No.1)  ◇

はじめに
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

 グローバル化や情報化、年齢構成の変化(少子高齢化)、科学技術の進展等が急速に進む変化の激しい時代を、子どもたちが、たくましく、かつ柔軟に生きていくために必要な力の育成が、現在の学校教育の大きな課題となっています。このような状況の中、下村博文文部科学大臣は、平成26年11月20日、中央教育審議会に「初等中等教育における教職課程の基準等の在り方について」という諮問を行いました。その中に、次のような文言があります。

 「新しい時代に必要となる資質・能力の育成に関連して,これまでも,例えば,OECDが提唱するキー・コンピテンシーの育成に関する取組や,論理的思考力や表現力,探究心等を備えた人間育成を目指す国際バカロレアのカリキュラム,ユネスコが提唱する持続可能な開発のための教育(ESD)などの取組が実施されています。

 これらの取組に共通しているのは,ある事柄に関する知識の伝達だけに偏らず,学ぶことと社会とのつながりをより意識した教育を行い,子供たちがそうした教育のプロセスを通じて,基礎的な知識・技能を習得するとともに,実社会や実生活の中でそれらを活用しながら,自ら課題を発見し,その解決に向けて主体的・協働的に探究し,学びの成果等を表現し,更に実践に生かしていけるようにすることが重要であるという視点です。そのために必要な力を子供たちに育むためには,『何を教えるか』という知識の質や量の改善はもちろんのこと,「どのように学ぶか」という,学びの質や深まりを重視することが必要であり,課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる『アクティブ・ラーニング』)や,そのための指導の方法等を充実させていく必要があります。こうした学習・指導方法は,知識・技能を定着させる上でも,また,子供たちの学習意欲を高める上でも効果的であることが,これまでの実践の成果から指摘されています。」

 そして、検討内容の一つとして、「今後の『アクティブ・ラーニング』の具体的な在り方についてどのように考えるか。また、そうした学びを充実させていくため、学習指導要領等において学習・指導方法をどのように教育内容と関連付けて示していくべきか。」を挙げています。

 文部科学省は、このように「アクティブ・ラーニング」を「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」と捉え、今後の国の教育施策の一つとして重要な位置付けをしています。

 本コーナーは、「子どもたちが自律的な学習者になるために-アクティブ・ラーニングの勧め-」というタイトルです。国の教育の流れも踏まえながら、一人一人の子どもが、生涯にわたって、他と関わり合いながら自ら進んで問題解決に向かっていくことができる力を身に付けるには、各学校において授業をデザインする上でどのようなことに配慮したらよいのかについて考えていきたいと思います。(次号に続く)

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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇
~ 打たれ強さの本質とは ~
「ヘコんでも折れない レジリエンス思考」
 小玉正博著  定価1300円(税別) 河出書房新社

あるTV番組で「レジリエンス」という聞き慣れない言葉を耳にして本書を手にとりました。レジリエンスは、筆者によれば「“困難あるいは脅威的な状況”に陥ってしまったときに、それを“克服”する力」つまり「回復力」であり、「困難な状況であるにもかかわらず“良好な結果をもたらす力”」つまり「心が折れない力」。しかも、その力は「生まれつきの性向やキャラクターに関係なく、誰もが学習により体得できる」ものだそうです。

本書は、臨床心理の研究者であり、カウンセラーとして多くの子どもたちに関わってきた著者が「冷静さ」「柔軟性」「楽観性」「自信力」「人間力」「回復力」の6つのキーワードでレジリエンス思考を解説します。例えば、「楽観性」には「特性的楽観性」と「学習的楽観性」があります。前者は生まれつきの気質に近いもので、早い話が「なんでもいいほうに考える人」。逆に特性的に悲観的な人は「どうしても悪いように考えてしまう」人。悲観的な人が失敗を経験すると、「いま、うまくいかないなら、これから先もうまくいかないし、どんな場合もうまくいかない。失敗は自分のせい」と考えがちです。これに対し「学習的楽観性」は、「なぜそうなったのか」を後付けで説明する時の考え方の習慣です。悲観的な人も「永続的か、一次的か」、「普遍的か特定的か」、「外在的/内在的」という3つの視点で「失敗」を説明すると「これは、いつもじゃない。この場合はこの条件に限ったこと。自分のせいじゃないし、○○を変えればきっとうまくいく」と特性的楽観性をもつ人のように修正できます。いわば「考え方の習慣=クセ」を正しく知れば変えることもできるというわけです。

一方、筆者は日本の学校教育にも言及し、子どもたちに「失敗をネガティブにとらえるクセがついていないか」と指摘します。また、いじめはレジリエンスの視点からみれば「自分の中にある怒りやストレスをきちんと処理する力がなく、本人もそれに気付いていないため目の前にいる弱い対象にどす黒い感情をぶつけてしまう」とみています。教師も子どもも何かとストレスフルな新学期、「打たれ強さ」の本質に迫ってみませんか。(関)