◆ 目次 ◆ ———————————————————————-
(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 子どもたちが自律的な学習者になるために -アクティブ・ラーニングの勧め-
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◇ 所長だより ◇
「日本型教育」の輸出(2)
教職教育開発センター所長 吉崎静夫
先月の発展途上国を中心に輸出されている授業研究(レッスン・スタディ)に続いて、今月は学校給食や掃除に代表される日本の特別活動が世界から注目されていることを取り上げます。
学校給食や掃除などの授業以外の特別活動が、「tokkatsu(トッカツ)」として、海外の教育関係者から熱い眼差しをうけています。そして、平成26年度には実に79カ国からの視察がありました。とくに、サウジアラビアでは数年前から日本の特別活動を手本として、小学校で教室の掃除を児童に指導しています。
では、なぜ日本の給食当番や掃除の分担作業が世界から注目されているのでしょうか。それは、給食当番や掃除の分担作業が、「協調性」「チームワーク」「自主性」「規律正しさ」のような社会性や人間性を育てることができると海外の教育関係者が見ているからです。海外では、給食の準備や学校の掃除は業者がやるのが当たり前と考えられています。そう言えば、私が訪れた国々(シンガポール、韓国、台湾、中国、香港、カナダ、米国、フィンランドなど)の学校でも、児童生徒が給食当番をしたり、教室や学校施設を掃除している姿を見かけたことがありません。もちろん正確な調査をしたわけでないので断定はできませんが。しかし、わが国では当たり前に考えられている学校文化が海外の教育関係者にとっては当たり前ではないのです。なかなか自分たちが意識していないことに、日本の教育文化の強みがあるのですね。そこで、文科省は、特活を含めた「日本型教育」の輸出を準備中だそうです。
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◇ 教育時事アラカルト ◇
特別支援学級への入級措置
教職教育開発センター教授 坂田 仰
もうすぐ障害者差別解消法が施行される。差別の解消に向けて,合理的な配慮を要求するこの法律は,学校関係者に大きな波紋を投げかけている。
例えば,こんな相談も少なくない。「重い障害を抱えているが,どうしても小学校は通常学級に入れたい。」。校長が面談し,通常学級では学校側の対応が難しいので,特別支援学級に入れてはどうかと打診しても,頑として受け付けない。「学校は子どもの学習権を侵害している。障害者差別に該当するし,合理的配慮を求めているだけだ」といった具合である。
そもそも,通常学級に入れるか,特別支援学級を選択するかについて,本人,保護者が決定権をもっていると考えてよいのだろうか。この点については,既に司法の場でも争われている。級特殊学級への入級が問題となった「留萌公立中学校特殊学級訴訟」である(札幌高等裁判所判決平成6年5月24日)。
判決は,「肢体不自由者に対する中学校普通教育において,当該不自由者を普通学級に入級させるか,あるいは特殊学級に入級させるかは,終局的には校務をつかさどる中学校長の責任において判断決定されるべきもので,本人ないしはその両親の意思によって決定されるべきものということはできない」としている。この判決を前提にする限り,少なくとも法的権限は,本人,保護者ではなく,校長が有していると考えるべきであろう。
ただ,判決の当否は別問題である。障害者差別解消法の誕生が象徴するように,判決が下された当時と比較し,法的にも,実務的にも,子どもの教育について保護者の意向を尊重するという方向に強く動き出している。この点を考慮するならば,何事においても,保護者の「納得と合意」を得るという努力が重要なことはいうまでもない。
文部科学省は,「合理的配慮は,事前に行われる建築物のバリアフリー化,介助者や日常生活・学習活動などの支援を行う支援員等の人的支援,情報アクセシビリティの向上等の環境の整備を基礎として,個々の障害者に対して,その状況に応じて個別に実施される措置であり,各場面における環境の整備の状況により,合理的配慮の内容は異なることとなる」としている(「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針の策定について」平成27年11月26日付け27文科初第1058号)。この点を踏まえた話し合いを繰り返すことが求められることになろう。
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◇ 子どもたちが自律的な学習者になるために ◇
-アクティブ・ラーニングの勧め- (No.11)
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉
9 自尊感情
「自尊感情」とは、自らを尊い存在と認識し大切にしようと思う感情です。自分にはよいところがあると肯定的に評価する「自己肯定感」や、自分は役に立っていると評価する「自己有用感」、自分は価値があり他者から認められている存在であると評価する「自己存在感」などを含む大きなくくりです。
授業において、教師と子ども、子どもと子ども同士が互いに深く関わり合う共感関係にあるとき、子どもがこれらの自尊感情を高めることで、学びは一層主体的に行われます。自尊感情と主体的な学びは密接な関係にあります。
(1)自尊感情と主体的な学び
国語科教員志望の日本文学科3年生のSさんは、中学校の国語の授業を参観した後、研究協議会で次のようなコメントを述べました。
「授業は、生徒が自分たちの作った短歌を、グループワークを通し、更に良いものになるように考えていくような授業展開になっており、意見交換することで互いの良さを発見できるような構成になっていました。グループワークなど互いに意見を出し合う授業は、短期的には、クラス内の結束が強まり一体感を持つことができる機会になるなと思いました。また、中長期的には、クラスの中で話すことで自分自身を見つめ直し、自分の良さや適性を考える機会にもなると思いました。」「自尊感情の育成という観点から考えた時、自分とは異なる他者を受け入れ、また受け止め尊重するということを重視しながら授業を進めることがとても重要であると気付きました。」「(また、)子どもたちに自己肯定感や自己有用感等の自尊感情を育てることが、子どもたちが自ら考え、決定し、それを互いに尊重し合う学習環境を自分たちで作っていくことにつながるのだと思いました。」
(2)学習意欲と自尊感情
英文学科4年生のTさんは、4月から英語科教員として教壇に立ちますが、抱負の中で次のように述べました。「教員として果たす重要な役割は、生徒に自律的な学習の仕方を身に付けさせることだと思います。常に課題意識を持ち、その解決に向けて主体的に取り組むことで、自己有用感や自尊感情を持たせることができます。また、課題に対してグループやクラスで協働的に取り組むことで、自分一人で悩むのではなく、他者と共に協力して活動することの楽しさや大変さの共有(共感)、アドバイスしてもらえることの大切さを学ぶことができます。私は4月から教師として、学級活動や英語の授業、道徳の時間においてアクティブ・ラーニングをできるだけ多く取り入れ、自分自身で考えを発言し、相手の意見を尊重しながら話し合う方法を生徒に身に付けさせたいと思います。」「子どもたちが自律的に学習を進めるには、教室が子どもたちの居場所になっていることが大切です。私は、生徒の自尊感情や共感的な人間関係、自己決定の場が豊かなクラス作りや学習指導に力を入れたいと思います。」
(3)学習指導と自尊感情の育成
この2人の学生の言葉のように、教師は、子どもたちが主体的・協働的に学習する環境を作り、授業を進める中で子どもたち一人一人の自尊感情に配慮します。正解か不正解かという二者択一的な指導ではなく、正解と不正解の間にあるものを大事にします。例えば、子どもの答えが不正解であるとき、その不正解をどのように受け止め、それをもとにどのように正解に導くかということを考えます。そこが教師の腕の見せ所です。自分の答えが不正解であった子どもは、このような教師の指導姿勢により、不必要に自己肯定感を損ねることなく、居場所を失うことになりません。一人一人の子どもの答えや意見を教師が大切に扱うことが、子どもたちが互いを尊重し合うようになる土台となります。そして、主体的に協力しながら学ぼうとする意欲を持つきっかけとなります。教師に高い教科の専門性と豊かな人間性が必要な所以です。
(次号に続く)