◆ 目次 ◆ ———————————————————————-
(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 小学校教師のための英語指導講座 -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め-
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◇ 所長だより ◇
ベトナム訪問記(1)
-異文化相互理解の意義と方法―
教職教育開発センター所長 吉崎静夫
私は、ベトナム(ホーチミン市)での6泊8日間(2016年2月27日~3月5日)の日本女子大学教育学科が主催する「異文化相互理解実地研究」の後半(ホーチミン市3泊、機中1泊)に参加しました。
3月2日(水)は、午前にホンバン大学で日本語を専攻する学生や担当教員との交流、午後にホーチミン市近郊のロシアン省バンフ―小学校で児童や教員との交流を行いました。そして、この日の2つの教育交流活動がこの異文化相互理解プログラムの中核をなしていました。そこで、これらの大学と小学校での交流活動を通して、私が思ったことを今月と来月の2回にわたって報告いたします。
異文化相互理解の意義は、(1)異なる国・地域の文化の特徴や価値を相対的視点に立って理解すること、(2)異なる国・地域の文化に触れることによって、自国の文化の特徴や価値を再認識すること、にあります。そして、これらの意義を考えると、ベトナムは、興味深い、魅力的な国であるといえます。その主な理由は、(1)現在のベトナムは、日本が1960年代から70年代にかけて「高度成長」をとげた状況にとても似ていること、(2)日系企業が2000社ほどベトナムに進出して、日本との関係が近年ますます深まっていること、(3)フランス、アメリカといった大国との戦いに勝利した国民の強さ(誇りと知恵)があること、(4)中国やフランスの文化(特に、食と建築物)を巧みに取り入れながら、独自の文化を築いていること、などです。
異文化相互理解の方法として、本プログラムでは、(1)日本女子大学の学生とホンバン大学の学生がお互いに正月や文化(お祭り)について紹介する活動、(2)小学校にて日本女子大学の学生が絵本の読み聞かせをする活動、というように「プレゼン活動」を中核としています。つまり、日本女子大学の学生は、一方的にベトナムの文化を学ぶだけでなく、積極的に日本の文化を紹介しています。そこには、日本での用意周到な準備活動がありました。例えば、ホンバン大学で日本の正月やお祭りを紹介するために、パワーポイント資料を作成したり、発表の練習を日本で事前にしていました。また、バンフ―小学校で児童に絵本(モチモチの木)の読み聞かせをするために、日本語をベトナム語に翻訳する作業を日本で事前にしていました。そこには、異文化相互理解というカリキュラムにもとづいて、日本での事前学習、ベトナムでの実地学習、日本での事後学習が三位一体となっていました。つまり、教育学科の専門科目として「異文化相互理解実地研究」が存在する意味を、それらの活動の中に見出すことができました。
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◇ 教育時事アラカルト ◇
読書活動の推進
教職教育開発センター教授 坂田 仰
「4月23日」が何の日か知っているだろうか。「子ども読書の日」である。子どもの読書活動の推進に関する法律(子ども読書活動推進法)に規定(10条2項)があり,国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界図書・著作権の日」に因んで制定されたと言われている。「朝読」に象徴されるように,読書活動の推進は,現在,全国の学校で取り組まれている活動である。だが,子ども読書の日を即答できる教員は案外と少ないのが実情であろう。
子ども読書活動推進法は,「子どもの読書活動の推進に関し,基本理念を定め,並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに,子どもの読書活動の推進に関する必要な事項を定めることにより,子どもの読書活動の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって子どもの健やかな成長に資することを目的」に制定された法律である(1条)。法律が指摘するように,読書活動は,「子どもが,言葉を学び,感性を磨き,表現力を高め,創造力を豊かなものにし,人生をより深く生きる力を身に付けていく上で欠くことのできないものである」(2条)。
子ども読書活動推進法に基づいて,「子ども読書活動推進基本計画」が制定されている(8条)。現在,「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」が進行中である(平成25年5月17日閣議決定)。第三次計画では,学校が推進すべき取り組みとして,①児童生徒の読書習慣の確立・読書指導の充実,②障害のある子どもの読書活動の推進,③家庭・地域との連携による読書活動の推進の三つを挙げている。
教育基本法の改正を受けて,義務教育として行われる普通教育の目標の中に,「読書に親しませ,生活に必要な国語を正しく理解し,使用する基礎的な能力を養うこと」が規定された(学校教育法21条5号)。子どもが生涯にわたって読書に親しみ,読書を楽しむ習慣を形成するため,学校現場としては,子どもの成長発達をサポートするという視点に立ち返り,取り組みの推進に努めていくべきである。
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◇ 小学校教師のための英語指導講座 -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め- ◇
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉
1 はじめに
(1) 小学校外国語学習の現状
現在、どの小学校も、次期の小学校学習指導要領では「外国語」(以下「英語」)が教科となる(であろう)ことも見据えながら、英語の学習指導に取り組んでいます。その取り組みは、ますます盛んになってきていますが、常に「誰が、何を、どのように指導するか」という問題がつきまとっています。現実には、「英語が得意な先生」が中心になったり、ALT(Assistant Language Teacher)にお任せしたりして指導が進められてきているという学校が少なくないようです。
実際に、英語が得意な先生の中でも、英語科指導法等を専門的に学んでこられた方は決して多くありません。常に「何を、どのように指導したら良いのか」に悩んでいる方は多く、小学校教諭対象の系統的な研修が必要であるという認識も高まってきています。
(2) 中学校英語教員から見た小学校英語教育
公立中学校の英語教員であった私(筆者)は、今も小学校を訪問し、英語の活動を参観させていただいています。そして、これまで訪れた小学校には次のような特徴のある学校がありました。
① 学習環境の整備
英語の学習環境に重点を置いている学校。余裕教室の有無という物理的な問題もありますが、「イングリッシュ・ルーム」等の名称の英語学習専用の教室(空間)を可能な限り整備していました。教室内には、英語での数字の書き方や身近な英語表現等のピクチャーカードが貼られていたり、英語の絵本が並べられたりしています。教室に一歩入れば英語の世界という雰囲気作りを重要視していました。
② 明確な指導目標
発達段階に応じて、子供たちは英語で何ができるようになるかを明確に捉えている学校。「英語教育に関する有識者会議報告」(平成26年9月26日)では、「小学校3・4年生:活動型を開始し、音声に慣れ親しむ」「小学校5・6年生:身近なことについて基本的表現によって4技能を積極的に使える英語力を身に付ける」等の学習の系統性を持たせるため英語活動を教科として行うことが求められていますが、その趣旨をすでに踏まえて文部科学省の“ Hi,friends!”等の教材を計画的に活用しようと工夫していました。
③ 活動時間の配分
子供たちの活動時間の配分を工夫している学校。小学校の授業時間は45分です。どれ程楽しい活動でも、45分間ずっと続けていると子供たちは集中できなくなります。先生は、45分を15分ずつ ①前回の振り返り ②動きのある活動 ③静かな活動 のように3つのパートに分けてメリハリのある活動を工夫していました。
④ 意欲的に活動している児童
児童一人一人が意欲的に英語の学習活動に取組んでいる学校。文部科学省の「小学校外国語活動実施状況調査(H23~H24)」 によりますと、平成23年度から小学校高学年(5、6年生)に外国語活動(週1コマ)を導入後、小学生の72%が「英語の授業が好き」。91.5%が「英語が使えるようになりたい」、中学1年生の約8割が「小学校外国語活動で行ったことが中学校で役立っている」と回答しています。意欲的に英語の学習活動に取組んでいる児童が多いという現状を示しています。
(3) 指導の成果に大きな期待
私は、上記の4点は驚くべきことであると考えています。課題山積の中、各小学校の先生方は、創意工夫を重ねられ、本当によく頑張っていらっしゃいます。小学校外国語活動の成果として、東京都中学校英語教育研究会は、「小学校外国語活動の影響で臆することなく、コミュニケーションができる生徒が増加 」「コミュニケーションへの関心・意欲・態度の高まり」「 小学校外国語活動の効果で、音声に慣れている。」を挙げています。このような各小学校の地道なご努力の継続により、今後大きな成果が得られることが期待できると実感しています。
(4)プラス1の留意点
私は、小学校英語教育の成果を整理しながら、ふと思いました。「これだけの成果が蓄積されているのだから、これまでの実践に、プラス1の留意点を加えることで、小学校の英語教育が格段に進展するのではないか。」
本コーナーでは、中学校英語教員の目から見た小学校英語教育のプラス1の留意点として、「子供のことばの習得」「活動で気をつけたいこと」「文法で気をつけたいこと」等について、今後5回のシリーズで述べたいと思います。「小学校英語教育推進リーダー」の方はもちろんのこと、すべての小学校教諭の方々にお読みいただき、いろいろなご意見の交流ができれば幸甚です。
(次号に続く)