◆ 目次 ◆ ———————————————————————-
(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 小学校教師のための英語指導講座 -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め-
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◇ 所長だより ◇
ベトナム訪問記(2) -学校教育への期待と信頼―
教職教育開発センター所長 吉崎静夫
今月は、先月に続いて、ベトナムの小学校での交流活動を通して、私が思ったこと報告します。
ロシアン省のバンフ―小学校は、1年生から5年生まで、45クラスで2300名の児童が在籍しているマンモス校です。1クラス50名です。近年、工業団地が増え、子どもが急増しています。ちなみに、一昨年31クラス800名、昨年41クラス1800名で、来年は2500名になる予定だそうです。あまりに急激な児童数の増加のために、教室が不足しています。そのために、2部制を採用しています。「午前の部」が7:00~10:35で、「午後の部」が13:00~16:35です。なお、1コマの授業は40分間で行われています。そして、授業期間は9ヶ月(夏休み3ヶ月)です。
カリキュラムは、ベトナム語、算数、社会(1~3年)、歴史(4~5年)、音楽、体育、生活、地理、そして選択教科:英語またはコンピュータ(3年~5年)で構成されています。そして、教科書は、児童がそれぞれ本屋に買いに行きます。ただし、貧しい家の児童は、教科書を買えないため、学校の貸し出しの教科書を使います。学校では、卒業生の教科書を集めておいて、貧しい家の児童に貸す準備をしています。さらに、裕福な親からの寄付があり、その寄付を利用しています。なお、授業料は無料ですが、教材費として年間で27万ドン(1350円)徴収しています。
バンフ―小学校の教員数63人(男45人、女18人)です。校長先生の話によれば、教師の社会的地位は高く、人々から尊敬されているそうです。そして、教師の仕事は、安定した収入を得ることができ、教師の年齢に応じて給料が上がっていくそうです。
私は、この小学校の様子は、まさに1950年代から60年代にかけて「団塊の世代」の児童が在籍していた日本の小学校と同じだと思いました。同席した「団塊の世代」の東原教授も、「まるで僕の小さい頃の日本を見るようだ」と呟いていました。これらの風景は、参加した学生たちの目にはどのように映ったのでしょうか。
ある学生は、次のような感想を書いていました。「――――、一番驚いたことは、学校と先生の社会的立ち位置が、一昔前の日本にそっくりだったことだ。やはり、成長段階にある国では、学校教育に大きな期待と信頼をよせるのだろうと思う。どんどん学歴社会への道を進んでいくのか、能力・資質重視の世の中になるのか、ふと将来について考えてしまった。――――」
実によく見て、考えているなぁと感心し、同時にとても嬉しくなりました。この学生が書いていることが、私がこの国の教育から感じたことだったからです。
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◇ 教育時事アラカルト ◇
「女性活躍推進法」の施行-女性管理職登用に向けて-
教職教育開発センター教授 坂田 仰
2016(平成28)年4月1日,女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)が施行された。「自らの意思によって職業生活を営み,又は営もうとする女性がその個性と能力を十分に発揮して職業生活において活躍すること」が重要との理念に基づくものである(1条)。
今後,企業等は,女性活躍推進法の下,数値目標を示して女性の積極的登用を推進することが求められることになる。公立学校等の公的機関についても同様である。内閣府は,地方公共団体に対して,「「国家公務員の女性活躍とワークライフバランス推進のための取組指針」も踏まえ,積極的に取組を推進すること等による公的部門による率先垂範 」を求めている(「女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針の策定について」平成27年9月25日付け府共第775号)。
では,公立学校での女性教員の管理職登用はどのような状況であろうか。文部科学省によれば,2015(平成27)年4月1日現在,全国で,女性の管理職(校長,副校長,教頭)が11,083人おり,前年同期と比較して220人増加しているという(平成26年度公立学校教職員の人事行政状況調査)。文部科学省は,「教育委員会において,能力実証を行った上で,管理職としての任用時に勤務地の配慮を行うなど,仕事と家庭の両立が図られる職場環境を整えることで,女性管理職の登用が可能となるよう努めてきた結果と考えられる」と自賛している。
ただ,女性活躍推進法が掲げる「数値目標」の設定については違和感を抱く。ここ数年,教育改革の流れの中で,学校現場では数値目標が大流行である。だが,その結果,何が残ったか。短期的な目標達成に囚われる余り,一人ひとりの子どもとじっくりと向き合い,その成長を支えていくという観点が疎かになっているように思える。先の文部科学省調査では,女性管理職の割合は15.7%にまで上昇し,過去最高を更新したことが明らかになっている。「学校現場に数値目標は馴染まない」。女性管理職の増加は,その査証ではないだろうか。
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◇ 小学校教師のための英語指導講座 -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め- ◇
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉
2 これからの小学校外国語活動
(1) 現行の学習指導要領での外国語活動 現行の小学校学習指導要領(平成20年3月改訂、平成23年度から実施)では、小学校の外国語活動の目標は、「外国語を通じて,言語や文化について体験的に理解を深め,積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り,外国語の音声や基本的な表現に慣れ親しませながら,コミュニケーション能力の素地を養う。」です。
中央教育審議会の答申(平成20年1月)でも述べられたように、社会や経済のグローバル化が急速に進展し、異なる文化の共存や持続可能な発展に向けて国際協力が求められるとともに、人材育成面での国際競争も加速していることから、学校教育において外国語教育を充実することが重要な課題の一つとなっていると考えられました。そして、小学校段階で外国語に触れたり、体験したりする機会を提供することにより、中、高等学校においてコミユニケーション能力を育成するための素地をつくることが重要とされました。
平成23年度からは、小学5・6年生において、外国語活動が週1コマ導入されました(平成21年度及び22年度から学校の判断により先行実施が可能)。教科としては位置付けず、成績評価は文章による記述とされました。また、言語は英語を取り扱うことが原則とされました。
現在でも、活動内容は、音声や基本的な表現に慣れ親しむことが中心とされ、指導は、学級担任または外国語を担当する教員による実施が中心となり、ネイティブ・スピーカーや外国語に堪能な地域の人々の協力を得て行われてきています。
(2) グローバル化に対応した英語教育の改革
文部科学省は、「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」を平成25年12月13日に公表しました。「英語教育の在り方に関する有識者会議」はこれを受けて審議を重ね、そのまとめを「今後の英語教育の改善・充実方策について 報告 ~グローバル化に対応した英語教育改革の五つの提言~」として、平成26年9月26日に公表しました。その中から小学校に関する主な内容をいくつか紹介します。
① 小学校 : 中学年から外国語活動を開始し、音声に慣れ親しませながらコミュニケーション能力の素地を養うとともに、ことばへの関心を高める。高学年では身近なことについて基本的な表現によって「聞く」「話す」ことなどに加え、「読む」「書く」の態度の育成を含めたコミュニケーション能力の基礎を養う。学習の系統性を持たせるため教科として行うことが求められる。小学校の英語教育に係る授業時数や位置付けなどは、今後、教育課程の全体の議論の中で更に専門的に検討。
② 小学校の中学年では、主に学級担任が外国語指導助手(ALT)等とのティーム・ティーチングも活用しながら指導し、高学年では、学級担任が英語の指導力に関する専門性を高めて指導する、併せて専科指導を行う教員を活用することにより、専門性を一層重視した指導体制を構築。
小学校教員が自信を持って専科指導に当たることが可能となるよう、「免許法認定講習」開設支援等による中学校英語免許状取得を促進。
英語指導に当たる外部人材、中・高等学校英語担当教員等の活用を促進。
③ 2019(平成31)年度までに、すべての小学校でALTを確保するとともに、生徒が会話、発表、討論等で実際に英語を活用する観点から中・高等学校におけるALTの活用を促進。
④ 大学の教員養成におけるカリキュラムの開発・改善が必要。例えば、
◯小学校における英語指導に必要な基本的な英語音声学、英語指導法、ティーム・ティーチングを含む模擬授業、教材研究、小・中連携に対応した演習や事例研究等の充実。
◯中・高等学校において授業で英語によるコミュニケーション活動を行うために必要な英語音声学、第2言語習得理論等を含めた英語学、4技能を総合的に指導するコミュニケーションの科目の充実等を、英語力・指導力を充実する観点から改善することが必要。今後、教員養成の全体の議論の中で検討。
⑤ 小学校の専科指導や中・高等学校の言語活動の高度化に対応した現職教員の研修を確実に実施。
次回(6月号)からは、上記④と⑤の提言を踏まえ、小学校教師が身に付けていることで、英語指導がより充実する基本的かつ重要な項目を取り上げ、シリーズで述べていきたいと思います。
(次号に続く)