カモミールnetマガジン

2016年7月号

◆ 目次 ◆ ———————————————————————-

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 小学校教師のための英語指導講座  -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め-

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◇ 所長だより ◇

授業過程での教師の認知と対応(2)
           教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月は、先月に続いて、授業の中で(あるいは授業の後で)教師が何を知覚し、それをどのように解釈するのかといった「認知(気づき)」と、その認知にもとづいてどのような「対応(指導・助言など)」をするのかといったことを考えてみます。

 ショーン(Schon,D.A)は、「実践者はまさに実践している真っ最中にも実践について省察している」と言います。まさに、「行為の中の省察(reflection in action)」です。また、「時には、事後の静けさの中で、自分が取り組んだプロジェクトや過ごしてきた状況について思いだし、その事例に対処するために行った行為を探索する。実践者はこれをぶらぶらと思索するムードの中で行うかもしれないし、あるいは将来の場合に備えて熟考して行うかもしれない。」まさに、「行為についての省察(reflection on action)」です。

 今回は、わが国の授業研究法から、藤岡信勝らによって開発された「ストップモーション方式による授業研究」を取り上げます。ところで、この授業研究法は、授業を録画したビデオを視聴し、ビデオを一時停止(ストップモーション)しながら、参加者が自由に発言したり、時に参加者間で議論する授業研究の方法です。この方式の特徴は、議論が授業の事実に即してなされることと、参加者が誰でも自由に口出しできることにあります。

 また、この方式の特徴は、「初めて見る授業」対「既に見た授業」と、「生(ナマ)の授業場面」対「ビデオ録画された授業場面」という2つの視点で整理してみることができます(表1参照)。なお、表1には、先月紹介した「オンゴーイング法」と、来月号のメルマガで取り上げる「VTR中断法」も位置づけてみます。

 表1の1-A、1-Bは、「授業中の認知 (cognition in lesson)」です。なお、「授業中の認知」は、まさに現在進行形で授業の中で起こっている事象(特に、児童生徒の学習状態と教師の手立て)についての授業者や観察者の知覚と判断(解釈)を意味します。

 一方、表1の2-Bは、「授業後の認知 (cognition on lesson)」です。なお、「授業後の認知」は、既に実践した(あるいは観察した)授業において、その授業の中で生じている事象(特に、児童生徒の学習状態と教師の手立て)についての授業者や観察者の知覚と判断(解釈)を意味します。なお、「視聴オンリー型」はビデオ録画された当該の授業を初めて見ることであり、したがって、生(ナマ)の授業かビデオ録画された授業かの違いはあるが、1-A、1-Bはショーンの言う「行為の中の省察(reflection in action)」と関係があり、「参観―視聴型」は生(ナマ)の授業を参観した後に、再度ビデオ録画された授業を見ることであって、2-Bはショーンの言う「行為についての省察(reflection on action)」と関係があります。


文献
・藤岡信勝『ストップモーション方式による授業研究の方法』学事出版、1991年
・Schon,D.A. (1983) The reflective practitioner: How professionals think in action. New York: Basic Books.
D.A.ショーン(著)佐藤学・秋田喜代美(訳)(2001)『専門家の知恵―反省的実践家は行為しながら考える』ゆみる出版

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◇ 教育時事アラカルト ◇

通知表の作成権限-誤記載多発を受けて-
           教職教育開発センター教授 坂田 仰

 ここ数年,通知表の誤記載が問題になっている。相模原市や茅ヶ崎市,船橋市等,今年に入ってからも相次いで発覚している。事件が発覚する度に,教育委員会は,「再発防止に向けて,点検作業を強化する」,「職員の意識を高める」等,お決まりのフレーズを繰り返す。しかし,抜本的な改善からはほど遠い状況である。

 そもそも通知表とは何なのか。通知表は,風物詩の一つとして学校生活に欠くことの出来ない存在と言える。しかし,不思議なことに,学校教育法その他関係法規には,通知表に関する記載が存在しない。児童等の学習及び健康の状況を記録した書類の原本として,明文で校長に作成義務が課せられている指導要録との大きな違いである(学校教育法施行規則24条1項)。

 根拠となる法令が存在しないことが災いしてか,通知表は誰が作成する権限を有しているのかも曖昧である。学校経営の最高責任者である校長が,校務掌理権(学校教育法37条4項)等に基づき,作成するかしないか,作成するとしてその形式をどうするのか,記載内容等を決定すると考えるのが実務である。だが,担任教員が,自らの判断で所見等を記載し,チェック等を経ずに配布している学校があるという。そして,教育学等の世界では,教員の専門職性を根拠とし,個々の教員の裁量に委ねるべきとする考え方が今も存在している。

 この点について,校長が,通知表の下書きの提出を義務づけ,記載内容の変更を命じた職務命令の有効性が争われた事案がある(仙台地方裁判所判決平成23年1月20日)。訴訟において,教員側は,通信表の作成を含む教育指導については,校長の指揮・命令から独立した教員の権利,自由が保障されなければならず,通信表の下書き提出の指示,所見欄修正指示は,職務命令の対象とはなり得ない等と主張した。これに対し判決は,教員側の主張に一定の理解を示しながらも,個々の教員の独立性を過度に強調することは,「学校の組織体としての教育を阻害するおそれ」があるとして,下書きの提出を命じた職務命令の有効性を肯定している。

 学校がチームとして機能することを強く求められている現在,校長はチームの監督的存在と言える。通知表は,あくまでもチームとしての学校が配布する公的な書類であり,担任の指摘配布物ではあり得ない。チーム学校の意思統一という観点から,校長にチェック権を付与することは妥当と言えるだろう。

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◇ 小学校教師のための英語指導講座   -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め- ◇
           家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

4 ことばの意味の習得

 今回は、子どもはどのようにしてことばの意味を身に付けるのか、について考えてみましょう。岡本夏木氏は、「ことばと発達」(1985)の中で、次のように述べています。

(1) 未知の語の意味
 「未知の語について、それと同義の自分にとっては既知の語を字引から学んだり、先生や親から教えてもらうことにより、新しい語の意味を知ってゆくという方法とは異なり、いま一つ子どもが意味を身につけてゆくしかたがあることに注目しなければならない。」
 「それは、一つの未知の語が、どのような文脈の中に置かれるのか、つまりその語が適合する文脈的意味を通して、その語を理解してゆく方法である。例えば、『みじめ』という語を耳にした3年生の子どもが、『みじめ』とはどんなことかとたずねる。そこで、
 『皆から笑われてみじめな気がした』
 『食べ物がなくなってみじめだった』
 『みじめな人たちを助けよう』
 『野球試合でみじめな負け方をした』(太字は原文のまま)
というような、「みじめ」という語が入ったいくつかの文章を子どもに示してやる。そこでは、「みじめ」イコール「……」というような語を語でもって置き換える厳密な説明はないが、子どもはそれなりにかなり「みじめ」の意味を把握する場合が多い。語が適合する文全体の文脈的意味から、その語の意味の所在を推測していくのである。また、場合によっては、不適合文を加えてやることも有効かもしれない。「おいしいご馳走を食べてみじめだった」とは言わないことを教えるような場合である。」
 「そして、幼児が日常生活の中で語の意味を知ってゆく過程はこうした文脈をとおしての推定によるのが普通であり、また、小学生の低・中学年の子どもに語の意味を教えてゆく際にも、こうした方法の方が、語と語の対応、あるいは語を語によって定義して示してやる方法よりも、子どもにとって受け入れやすい点に私たちは注目しておく必要があろう。」(下線は筆者による)

(2) ことばの文脈的意味
 あることば(語、表現)が使われる時、そのことばが使われる「場面」があります。様々な場面がありますが、それらの場面には、ある共通性があります。その共通性を、そのことばが使われる「文脈」(context:コンテクスト)と呼ぶことにします。子どもは、そのことばが使われるのを何度も聞いたり読んだりしているうちに、「ああ、こういう時にこの言葉が使われるんだ。」というように、そのことばが使われる文脈の存在に気付きます。そして、次には、似たような文脈の中でそのことばを使ってみます。もし、その使い方が周囲の大人たちに受け入れられたなら、彼はそのことばの使われる文脈を理解したことになります。しかし、同じ文脈と思って使っても、「おかしい」「変だ」「そのことばは、こういう時には使わない」と受け入れられないこともあります。
 子どもは、このようなことを何回も経験し、推測や修正を繰り返しながら、そのことばが使われる適切な文脈があることを知っていきます。子どもは、ことばの意味や使い方を、他のことばに言い換えて知るだけでなく、そのことばが談話の中で意味を持って成立するための言語的・非言語的な条件を、そのことばの意味や使い方として捉えていくのです。

(3) 英語学習への応用
 最近の言語習得に関する研究が報告しているように母国語と外国語の習得過程が基本的に同じものであれば、上述した「ことばの文脈的意味の理解」のメカニズムを英語の学習に応用できると思われます。
 英語の語や表現、文法項目が用いられる文脈を言語学的に分析し、ある程度整理した形で示すことができれば、教師は、それをもとに、学習目標とする英語の語や表現、文法項目が用いられる適切な「場面」をいくつも設定することができます。  
 そして、その「場面」を子どもに提示し、そこからそれらの語や表現、文法項目等が用いられる文脈を類推させるなどして、帰納法的に理解させることができます。 
 また、練習においても、コミュニケーションを重視した練習を円滑に行うことができます。それにより、子どもたちは英語の語や表現、文法項目等を創造的に使うことができるようになるのです。
                   (次号に続く)