◆ 目次 ◆ ———————————————————————-
(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 小学校教師のための英語指導講座 -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め-
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◇ 所長だより ◇
アクティブ・ラーニング(1)
教職教育開発センター所長 吉崎静夫
アクティブ・ラーニング(問題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習)は、児童・生徒の「受動的な学習」から「能動的な学習」への転換を図る教育方法(学習・指導法)として、初等・中等・高等教育のすべての学校教育段階において、活発に展開されることが期待されています。そこで、今月号と来月号において、アクティブ・ラーニングを取り上げます。
ところで、文科省中央教育審議会教育課程企画特別部会は、平成27年8月26日に、次期学習指導要領改訂において求められる学力の論点整理を行いました。そこでは、育成すべき学力を次の3つの資質・能力で示しています。
①「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」
②「知っていること・できることをどう使うか(思考力、判断力、表現力等)」
③「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」
そして、これらの資質・能力を育成する学習・指導法の視点として、アクティブ・ラーニングが取り上げられました。
ところで、アクティブ・ラーニングのポイントは、次の3つの「学び」を統合することにあります。
①深い学び(問題の発見と解決に向けての学び)
②主体的な学び(見通しをもって、主体的に知識・技能を習得するとともに、自らの考えをもつ学び)
③協働的な学び(他者との協働を通じて、自分や他者の考えを広げ、深める学び)
そこで、筆者は、前述した3つの資質・能力と、アクティブ・ラーニングの3つの学びを組み合わせて考えることを提案したいと思います(図1参照)。
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◇ 教育時事アラカルト ◇
貧困問題と子ども貧困対策法
教職教育開発センター教授 坂田 仰
日本国憲法は,全ての子どもに平等な教育を提供することを目標としている。しかし,この願いは,今も実現していない。厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば,2012(平成24)年の時点で,日本の等価可処分所得中央値は約244万円,その半分の122万円辺りが貧困線と考えられている。したがって,相対的貧困率はおよそ16.1%になり,単純計算では日本国民の6人に1人が貧困状態にあることになる。
現在,子どもの貧困問題への対応は,子どもの貧困対策の推進に関する法律(子ども貧困対策法)を基礎に行われている。「子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう,貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備するとともに,教育の機会均等を図るため,子どもの貧困対策に関し,基本理念を定め,国等の責務を明らかにし,及び子どもの貧困対策の基本となる事項を定めることにより,子どもの貧困対策を総合的に推進することを目的」とした法律である(1条)。
この法律の下,「国及び地方公共団体は,就学の援助,学資の援助,学習の支援その他の貧困の状況にある子どもの教育に関する支援のために必要な施策を講ずる」ことが求められている(10条)。この点,政府が定めた大綱では,学校が,教育支援に関して子どもの貧困対策のプラットフォームとして位置付けられ,教育費の負担軽減を図ることが宣言されている。
また,大綱は,子どもの貧困対策を総合的に推進するに当たって25の指標を設定した。教育に関わっては,子どもの貧困率,スクールカウンセラーの配置率,スクールソーシャルワーカーの配置人数,就学援助制度に関する周知状況などが指標となっている。指標の改善に向けた重点施策として,きめ細かな学習指導による学力保障,幼児教育の無償化に向けた段階的取り組み,貧困の連鎖を防止するための学習支援の推進などが進められている。これら施策の理解は,全ての学校関係者に求められる必須の事項と言えるであろう。
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◇ 小学校教師のための英語指導講座 -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め- ◇
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉
5 「文脈」(context)
前回は、あることば(語や表現、文法項目等)が用いられる「文脈」に注目しました。そして、英語指導においても、英語の語や表現、文法項目等が用いられる「文脈」に重点を置くことによって、子どもたちは、より自然で円滑な形で学習することが可能になることを述べました。今回は、「文脈」についてより詳しく考察し、「文脈」に重点を置いた英語指導の理念について述べたいと思います。
(1)「文脈」の定義
本コーナーでは、「文脈」を下記のように定義します。そして、用語の統一のため、以後、「文脈」を「コンテクスト」と表すことにします。
「文脈」(以下、「コンテクスト」):
「あることば(語、表現、文法項目等)が用いられるための
主観的・客観的条件が満たされている状況・場」
主観的条件:他のことばでなく、わざわざそのことばを用いる話し手の意図や動機、述べようとする出来事や状況をどのようなものとして捉えているかという心的態度など。
客観的条件:話し手がそのような意図や動機、心的態度などをもつための背景となる客観的状況。例えば、場所、天候、時間など。
(2)コンテクスト(文脈)に重点を置いた英語指導
従来の文法項目中心の英語指導がコミュニケーション能力の育成に結びつかなかったのは、文法項目が実際の言語運用の場面において用いられるコンテクストを十分に考慮していなかったことが大きな原因の一つです。
現在も「場面重視」の指導が行われています。例えば、教師が実際にドアのところに行って動作をしながら、I am opening the door.と言ったり、走っている犬の絵や写真を見せて、生徒がThe dog is running.と言ったりする活動はよく行われています。この指導は、場面と動作が結びついているという点では意味があります。
しかし、実生活の中で、相手の眼の前でドアを開けながらI am opening the door.と言うことは普通まれであり、不自然ですらあります。また、教師の示す絵を見てThe dog is running.と言う生徒の発話は、脈絡のない唐突で不自然な発話です。これらの活動は、「現在進行形」の「形式」の学習にはなっても、実際的な「使用」の学習にはならないのです。
ある文法項目が、現実の使用場面において使えるようになるには、その文法項目が用いられるコンテクストが適切に設定されている「談話」(意味のある言葉のやり取り)を生徒に提示することが大切です。そして、生徒は、そこから、その文法項目を使っている話者が「どのような時に」「どのような意味で」「どのような意図で」その文法項目を使っているのかを類推することが重要です。
(3)プラス1の文法知識
従来の中・高等学校の英語教育(特に文法指導)での大きな課題の一つは、ある文法項目を指導するとき、話者は、なぜわざわざその文法項目を使うのか、という視点に欠けていたことです。
例えば、Aさんが、「その本を読んだ」ということを相手に伝えるとき、 I have read the book.と言ったとします。では、なぜAさんはその時、I read the book.と「過去形」ではなく、あえて「現在完了形」を使ったのでしょうか。それは、Aさんに何らかの「意図」があったからです。その「意図」が「現在完了形」を用いるコンテクストの一部となっているのです。そういった視点が「現在完了は、完了、経験、継続を表す。」といったような従来の文法指導には欠けていたのです。
また、(2)で述べた「現在進行形」についてはもっと基本的な大きな課題があります。「現在進行形(be動詞+~ing)は、「~しているところ」という意味を表す。」というような単純化した指導を受けた子どもは、先ほどのI am opening the door.を「私はドアを開けているところだ。」という意味だと思い込んでしまいます。また、The dog is dying.を「その犬は死んでいる。」と思ってしまいます。動詞のopenやdieの持つ「完結的」という意味特性(詳細は次回に説明)をきちんと捉えずに中途半端に指導してきていたのです。
これらの反省点を踏まえ、これからのコミュニケーションを重視した英語指導を考える時、小学校の教師も、英語のことば(語や表現、文法事項等)の表す基本的な概念や、それらが使われるコンテクストを理解していることが重要になります。多少専門的になりますが、それは小学校教師に必要な「プラス1」の内容です。次回からは、そのことについて具体的に整理して述べたいと思います。
(次号に続く)