カモミールnetマガジン

2016年9月号

◆ 目次 ◆ ———————————————————————-

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト
(3) 小学校教師のための英語指導講座  -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め-

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◇ 所長だより ◇

アクティブ・ラーニング(2)
           教職教育開発センター所長   吉崎静夫

 今月も、先月に続いて、アクティブ・ラーニング(問題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習)を取り上げます。

 ところで、アクティブ・ラーニングのポイントは、次の3つの「学び」を統合することにあります。
① 深い学び(問題の発見と解決に向けて問い続ける学び、つまりある問題が解決した後も、新たな疑問や問が生まれるような学び)
② 主体的な学び(問題解決をめざして、自らの考えをもつ学び)
③ 協働的・対話的な学び(他者との対話・協働を通じて、自分や他者の考えを広げ、深める学び)
そして、アクティブ・ラーニングでは、学習活動が話し合い活動になっているとか、活発な学習活動が展開されているといった児童生徒の学習行動面にのみ目を奪われることなく、児童生徒の内面過程(特に、思考過程)に注目する必要があります。そうでないと、総合的な学習において「活動あって学習なし」とよく言われたことを、アクティブ・ラーニングでも繰り返すことになりかねません。

 そこで、東京都板橋区立高島第三中学校では、「板橋区授業スタンダード」をふまえて、次の4つのステップで授業づくりを行っています。
(1)本時の目標を理解する→問題の発見と解決に向けての学び
(2)自分の考えをもつ→自主的な学び
(3)自分の考えや友だちの考えを深める→協働的・対話的な学び
(4)本時の目標についてふり返る→新たな問をつくる深い学び

 そして、これらの授業を実践するために、次のような手だての工夫をしています。
(1)言語活動の重視→考えや意見の発表・交換
(2)道具の活用→ICT、ホワイトボード、付箋など
(3)思考ツール(シンキングツール)の活用→関連づけ、分類、比較などのツール
(4)学習形態→個別学習、グループ学習、一斉学習のスムーズな展開

 このように、アクティブ・ラーニングでは、「目標を理解させる手だて」「考えをもたせる手だて」「考えを深める手だて」「ふり返りをさせる手だて」が求められています。

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◇ 教育時事アラカルト ◇

組み体操事故を考える
           教職教育開発センター教授 坂田 仰

 組み体操事故に対する批判が高まっている。ピラミッドタワーといった大技は,クラスの団結を高めたり,達成感をもたらしたり,子どもの成長発達に大きな効果がある。その反面,崩壊や転落に伴う骨折や打撲,捻挫といった事故が絶えない。「子どもの安全のために即刻中止せよ」という声があがるのも無理からぬことである。だが,その一方で,地域住民,卒業生の中には,伝統や教育効果を根拠に存続を望む声も多い。学校,教員はその板挟みとなり,頭を抱えることになる。

 では,仮に継続するとして,学校,教員は,どのような点に注意をしなければならないのだろうか。この点,愛知県公立小学校ピラミッド転落事故訴訟が参考になる(名古屋地方裁判所判決平成21年12月25日)。運動会に向けた組み体操の練習中,小学六年生の男児が,四段ピラミッドの最上段から転落し,左腕を骨折した事案である。児童は,指導に当たっていた教員に過失が存在するとし,学校の設置者を相手として損害賠償を求める訴訟を提起した。

 判決は,「体育の授業は,積極的で活発な活動を通じて心身の調和的発達を図るという教育効果を実現するものであり,授業内容それ自体に必然的に危険性を内包する」と指摘し,体育の授業が有する教育的効果とそこに潜む危険を指摘する。そして,危険性を内包する以上,「実施・指導する教員には,起こりうる危険を予見し,児童の能力を勘案して,適切な指導,監督等を行うべき高度の注意義務がある」としている。

 判決によれば,四段ピラミッドは,「最上位の児童は,2m以上の高い位置で立ち上がる動作を行い,かつ,安定するか否かは,三段目以下の児童の状況にかかってくるもので,落下する危険性を有する技である」とされる。そして,担当教員は,「児童に対し,危険を回避・軽減するための指導を十分に行う注意義務があると共に,最上位の児童を不安定な状況で立たせることがないように」,「児童を危険から回避させたり,危険を軽減したりする注意義務」を負うとし,教員が負担すべき指導義務の内容を説明している。学校現場が留意しなければならない内容と言えるであろう。

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◇ 小学校教師のための英語指導講座   -コンテクストに重点を置いた英語指導の勧め- ◇
           家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉

6 「プラス1」の英語学的な知識

前回は、これからのコミュニケーションを重視した英語指導を考える時、小学校教師も、英語のことば(語や表現、文法事項等)の表す基本的な概念や、それらが使われるコンテクストを理解していることが重要になることを述べました。  小学校の英語指導を参観させていただいて印象的なのは、指導の先生ご自身が中学校や高等学校等で学んでこられたものを基盤に、それらをご指導の中で活用し、工夫されている姿です。そのご努力は並々ならぬものであることがひしひしと伝わってきます。頭が下がる思いを抱くと同時に、たいへん不遜なことを申し上げるようで恐縮ですが、これまでに培われてこられた英語の知識に、本当に「プラス1」の内容を加えることで、もっと指導が広がる可能性を強く感じます。  「プラス1」の内容は、子どもたちに直接指導する内容ではありません。指導する教師側が知っておいてほしい内容です。知っているだけで、指導が大きく変わると確信しています。  その「プラス1」の内容は、小学校ばかりでなく、中・高の英語指導においても非常に有用なものです。大学の英語学専門の授業ばかりでなく、教職課程の英語科教育法の中でも応用言語学として体系的に取り上げてほしい内容です。本コーナーでは、特に、「動詞の種類」「現在進行形」「現在完了形」「受動態」を取り上げます。

(1)動詞の種類
 英語の動詞を下記のように分類して理解しておくことが、指導上有効となります。


 英語の動詞は、上記の表のように、動詞の表す内容(動作や行為)の時間軸上の様態、つまり、状態的/非状態的か、継続的/非継続的か、完結的/非完結的か、推移的/非推移的かという「相」(aspect)的な意味特性から分類することができます。

①状態的/非状態的
 英語の動詞は、状態を表す状態的動詞と、動作を表す非状態的動詞の二つに大別することができます。状態的動詞(have, know, live, love等)は、通例、進行形や命令文の形を取ることができません。一方、非状態的動詞は取ることができます。 
 子どもたちが、次の(1),(2)のような文を作らないためにも、英語指導の初期の段階から重要な事柄で、英語によるコミュニケーション能力の基礎を築くものです。
    (1) *Jane is having blue eyes.  [have(持っている):状態的]
    (2) *Taro is knowing Mr. Shimada.  [know(知っている):状態的]
              *は非文(文法的ではない文)であることを表す記号。

②非状態的・継続的・完結的
 動詞のdrink, eat, read, writeなどが他動詞(目的語を取る動詞)として使われるとき、非状態的(動作を表す)、継続的(ある程度の時間の長さを暗示する)、完結的(終結点がある)という意味特性があります。
    (3) Jane reads some books everyday.
      (ジェーンは毎日本を何冊か読む。)

③非状態的・継続的・非完結的
 run, walk, workなどの動詞は、非状態的(動作を表す)、継続的(ある程度の時間的な継続を想定する)、非完結的(終結点がない)という意味特性があります。
    (4) It snows a lot here every year.
      (ここは毎年雪がたくさん降る。)

④非状態的・非継続的・推移的
 arrive, begin, come, openなどの動詞は、非状態的(動作を表す)、非継続的(時間的な継続を特に想定しない)、推移的(別の状態への推移を表す)という意味特性があります。進行形で使うときに注意が必要です。
    (5) The door is opening.
      (ドアが開きます。)(=開こうとしている。)
    (6) The dog is dying.(その犬は死にかけている。)(「死んでいる」ではない。)

⑤非状態的・非継続的・非推移的
 hit, jump, kick, sneezeなどの動詞は、非状態的(動作を表す)、非継続的(時間的な継続を特に想定しない)、非推移的(別の状態への推移を表さない)という意味特性があり、通例は、「1回だけの瞬間的な動作」を表します。
    (7) The kicked the wall.
      (その少年は壁を蹴った。)
                   (次号に続く)