◆ 目次 ◆ ———————————————————————-
(1) 所長だより
(2) 「考える道徳」「議論する道徳」の推進―批判的思考力及び自律性の育成を中心に―
(3) 今月のおすすめ書籍
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◇ 所長だより ◇
三人称としての授業研究(3)
教職教育開発センター所長 吉崎静夫
今月は、「認知主義的アプローチによる授業研究」の具体例を取り上げて、「三人称としての授業研究」について考えます。
7月のメールマガジンで述べたように、「認知主義的アプローチによる授業研究」の特徴は、教師と生徒の教室行動の背後にあるものとして、授業過程での教師と生徒の内面過程(思考、判断、感情など)に注目している点にあります。そこには、20世紀後半に急激な発展をとげた認知科学の影響があります。その結果、認知主義的アプローチをとることによって、「行動主義的アプローチによる授業研究」では十分には明らかにすることができなかった課題(例えば、「なぜ教師や生徒はそのような教室行動をとるのか」、「なぜ教師や生徒はそのような教室行動をとることができるのか」といったことなど)がわかってくるとともに、教師という仕事がもつ困難さや魅力が次第に明らかになってきたのです。
そこで、「認知科学的アプローチによる授業研究」の一つの研究事例として、筆者が行った「授業過程における教師の意思決定」の研究(吉崎1983)を取り上げてみます。
この研究では、小学校6年の算数「角柱と角すい」の授業(授業者は中堅教師)をビデオ録画して、その授業のポイント場面(授業者が事前に予想していたよりもずっと早い時期に、トップクラスの児童から、本時のねらいに直結した応答が出た場面)でVTRをいったん停止させて、「もしあなたがこの授業者であったら、次にどのような教授行動(手だて)をとるつもりですか」というように、視聴者(全国の小学校教師200名)に教授行動の意思決定とその理由をたずねました。
その結果、教師の意思決定は、教職経験、教材経験、性差などによって影響を受けていることが示唆されました。特に注目されるのは、教職経験も教材経験も意思決定に影響を及ぼすけれども、教職経験という一般的経験よりも教材経験という特殊的経験の方が教師の意思決定に及ぼす影響は大きいということでした。つまり、教材経験は、同じ教材を同じ学年の子どもに教えた経験という意味で、当該の授業に対しては直接的・特殊的な経験です。一方、教職経験は、必ずしも同じ教材を同じ学年の子どもに教えた経験というわけではないので、当該の授業に対しては間接的・一般的な経験であるといえます。極端な例をあげれば、教職経験10年未満で教材経験4回以上という教師と、教職経験10年以上で教材経験なしという教師がいるということです。学級担任制の小学校ではよくあることです。そこが、教科担任制の中学校と大きく違う点です。
この研究のように、授業研究の方法を工夫することで、教師の内面過程(意思決定など)を明らかにすることができるのです。もちろん、この研究の背後には認知科学があります。そして、「三人称としての授業研究」は、認知主義的アプローチをとることによって、授業を構成している要因(教師、子ども、教材など)と、それらの要因間の関係を深層的側面から検討することが可能になるのです。
文献
吉崎静夫「授業実施過程における教師の意思決定」日本教育工学雑誌、8巻、61-70頁、1983年
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◇ 「考える道徳」「議論する道徳」の推進 -批判的思考力及び自律性の育成を中心に - ◇
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉
第1部 道徳の授業を取り巻く諸課題
6 「相互理解」の指導
(2)小学校低学年における「相互理解」の指導の重要性
前号で示した〔第3学年及び第4学年〕の「指導の要点」の中に、「この段階の児童は,自他の立場や感じ方,考え方などの違いをおおむね理解できるようになるが,ともすると違いを受け止められずに感情的になったり,それらの違いから対立が生じたりすることも少なくない。」とありますが、これは、小学校低学年の児童についても言えることです。
しかし、「指導に当たっては,相手の言葉の裏側にある思いを知り,相手への理解を深め,自分も更に相手からの理解が得られるように思いを伝える相互理解の大切さに気付くようにすることが大切である。」については、小学校低学年の児童では難しいでしょう。
榊原洋一氏(お茶の水女子大学副学長・小児科医)は、「子どもの発達~基本のき(こころの発達)」まいにちスクスク;2016.11.23放送」の中で、次のように述べています。
「小さな子どもが友だちと遊んでいてもめたとき、『そんなことしたらお友だちが悲しいでしょ』『お友だちが痛いでしょ』と言っても、2~3歳程度の子どもには分かりません。4歳か5歳くらいになってから少しずつ他人の心を理解できるようになり、徐々に複雑な人間関係にも対応できるようになっていきます。」
このように、4~5歳の子どもたちは、「人はそれぞれ感じ方が違う、立場が違う、考え方が違う」ということに気付き始めます。相手の立場(気持ちや考え)に立って考えるというのは、幼稚園や保育園時代に人間関係をうまく築いていくために初めに学ぶ大切なことです。
その後、子どもたちは小学校に入学し、大きな環境の変化と複雑な人間関係に遭遇します。その戸惑い等から「小1プロブレム」やいじめ等の問題が起こりがちになります。だからこそ、小学校低学年の段階では、幼児期での礎の元に、自分と同じように相手にも気持ちや考えがあることに気付き、相手の気持ちになって考えることが重要なのです。
そこで、本研究では、「相手の言葉の裏側にある思いを知り,相手への理解を深め,自分も更に相手からの理解が得られるように思いを伝える相互理解の大切さに気付くようにする」ための前段階として、学習指導要領の「11 相互理解,寛容」に〔第1学年及び第2学年〕の欄を新たに加え、次のような「指導内容」を設定することを提案します。
【提案1】
〔第1学年及び第2学年〕
人はそれぞれ感じ方や考え方が違うことに気付き、相手の気持ちになって考えること。
「相手の気持ちになって考えること」が、「相互理解」の基礎として不可欠です。
それが、学習指導要領の「7 親切、思いやり」や「10 友情、信頼」にもつながり、いじめの問題等に
子ども達が今後主体的に対応できる素地になると考えます。
<参考>
「7 親切、思いやり」
〔第1学年及び第2学年〕
◯ 指導の要点
この段階においては,家族だけでなく家の周りの人や学校の人々,友達
などとの関わりが次第に増えてくる。発達的特質から自分中心の考え方
をすることが多いが,様々な人々との関わりの中から,相手の考えや気持ち
に気付くことができるようになる。(「解説」から抜粋)
「10 友情、信頼」
〔第1学年及び第2学年〕
◯ 指導の要点
この段階においては,幼児期の自己中心性から十分に脱しておらず,友達の
立場を理解したり自分と異なる考えを受け入れたりすることが難しいことも
少なくない。しかし,学級での生活を共にしながら一緒に勉強したり,仲よく
遊んだり,困っている友達のことを心配し助け合ったりする経験を積み重ねる
ことで,友達のよさをより強く感じるようになる。また,友達とけんかをしても,
友達の気持ちを考え,仲直りできるようにする。(「解説」から抜粋)
(次号に続く)
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◇ 今月のおすすめ書籍 ◇
~学校教育の悪循環を好循環に変えるには~
「変わる学校、変わらない学校」
妹尾 昌俊著 学事出版 定価1,800円(税別)
日本の学校は、たとえ労働時間が「過労死ライン」スレスレでも「子どもたちのため」に頑張る教師が支えている、といっても過言ではないでしょう。ところが、残念ながらいくら教師が頑張っても一向に改善や進歩がみられない学校もあります。何が問題なのでしょうか。
本書は学校マネジメントコンサルタントとして活躍し、文部科学省の学校業務改善アドバイサーでもある著者が、「変わる学校」と「変わらない学校」との差を明らかにしつつ、改善の方途を探ります。といっても、評論家的に学校教育を批判するものではありません。学校現場で得た、教員や事務職員、保護者、住民等の頑張りと悩みを基にマネジメントやチームづくりのポイントを具体的に示してくれます。
「変わらない学校」は、課題の原因を深堀りせず手段ばかりを議論→「あれをやれ、これをやれ」で教職員の力が分散→中途半端な結果に教職員や地域のモチベーションが低下→「学校は変わらない」という世論を助長→改革という名のもとにさらなる手段が降ってくる、といった「悪循環」に陥っているといいます。
この悪循環から脱し、学校や家庭を活性化する好循環を作る学校マネジメントの基本は「①到達目標の共有、②プロセスの設計、③チーム・ネットワークづくりという3点を着実に実践していくこと」。「マネジメントなんて、まだ私には関係ない。管理職が学べばいいこと」と思う方もいるかもしれません。しかし、今後、新学習指導要領が実施されれば、さらに教師一人ひとりの自己研鑚に支えられた教育の質の確保・向上が求められます。
長時間労働を改善し、校内研修や自己研鑚の時間を生みだすには「チーム学校」がうまく機能することが不可欠。わくわくする授業を行うためにも学校マネジメントの改善は教師一人ひとりの課題ではないでしょうか。 (猫)