カモミールnetマガジン

2019年4月号

◆ 目次 ◆ ———————————————————————-

(1) 所長だより
(2) 児童・生徒の理解と指導 ―教師の「視点取得能力」の獲得と育成を中心に―
(3)教育時事アラカルト


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◇ 所長だより ◇

就任のご挨拶
           教職教育開発センター所長  田部俊充

 こんにちは、教職教育開発センター第2代所長の田部俊充です。

 教職教育開発センターは、教員養成から現職教員(卒業生)のブラッシュアップまで一貫したサポート体制の構築を目指し、2010年4月に設立されました。
「教員養成」「現職教育」「国内交流」「国際交流」を事業の柱とし、吉崎静夫教授が初代所長として就任され、2019年3月まで9年間にわたってご尽力されました。

 私は本学西生田キャンパスにおいて、川崎市をはじめとする教育委員会との連携に携わり、2006年8月より川崎市多摩区との連携事業「学校教育ボランティア学校サポート事業」をはじめ、川崎市・東京都狛江市との連携協定、授業科目「学校インターンシップ」へと拡充を重ねてきました。

 また、全学における北欧・スウェーデンへの学校訪問(就学前学校、義務教育学校、中等教育学校、ウプサラ大学)を核とした「国際交流」事業にもかかわってきました。
 同事業には、大学公認の海外短期研修として、2017年3月(第1回)に36名、2017年9月(第2回)に23名、2019年3月(第3回)に63名の学部、学科を超えた参加者があり、ウプサラ大学との研究交流も続いています。

 日本女子大学は1901年の創立以来、初等・中等教育分野において多くの教員を輩出しています。教職教育開発センターにおいても、その伝統や特性を活かしながら、魅力的な教職プログラムを提供していきたいと考えています。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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◇ カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間 ◇
           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

【1】はじめに

 教育課程(カリキュラム)とは、学校教育の目的や目標を達成するために、教育の内容を子供の心身の発達に応じ、授業時数との関係において総合的に組織した学校の教育計画です。そして、教育課程の編成主体は各学校です。

 今回の学習指導要領の改訂の大きな特徴の一つに「カリキュラム・マネジメント」があります。
 各学校においては、子供たちの姿や地域の実情等を踏まえて、各学校が設定する教育目標を実現するために、どのような教育課程を編成し、どのようにそれを実施・評価し改善していくのかという教育課程の管理運営が重要となります。それを「カリキュラム・マネジメント」と呼んでいます。

 各学校が設定する教育目標には、子供たちがこれからの社会を生き抜くために必要な「資質・能力」の育成が根幹にあります。ですから、学校の教育目標を達成するためには、教科等横断的な視点から教育活動の改善を図ることや、学校全体を通した取組を通じて、教科等や学年を超えた組織運営の改善を行っていくことが求められているのです。

 新しい学習指導要領では、学校教育全体を通して育成を目指す資質・能力について、次の三つの柱に整理しています。
ア「何を理解しているか、何ができるか(生きて働く「知識・ 技能」の習得)」
イ「理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等の育成)」
ウ「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養)」
 各教科等の目標や内容についても、この三つの柱に基づく再整理が行われました。

 ここで注意したいのは、ア、イ、ウの位置付けです。
 まずアを積み上げ、その上にさらにイを積み上げていき、その上でウを目指すというような「レンガの積み上げ方式」で進めるという考え方ではないことをここでしっかりと押さえておきたいと思います。
 重要なのは、目標とするウの実現のためにイの育成が欠かせず、イの育成のためにアの習得が必要である、という逆算的な考え方です。
 これからの学校教育は、よりよい社会を創り、人生を豊かにしていくために粘り強く頑張ろうとする意志や意欲といった非認知スキルの育成と、「思考力、判断力、表現力等」や「知識・技能」といった認知スキルの育成をバランスよく絡めながら育てていくことが重要なのです。

 本コーナーでは、これらの資質・能力の育成の一つの方策として、総合的な学習の時間を中心とした教育課程の編成を提唱したいと考えています。
 例えば、学校の教育目標の基本理念を「未来の創り手としての資質・能力の育成」とします。汎用的な能力の育成を重視する世界的な潮流を踏まえつつ、また、教科を学ぶ本質的な意義を大切にしつつ、よりよい社会を創り、人生を豊かにしていくためにはどのような課題が身の回りにあるかを探究的な見方・考え方をもって多面的・多角的に捉える力の育成をメインテーマとします。
 そして、総合的な学習の時間を中心として、その周りに、例えば従来のコア・カリキュラムのようなイメージで、その他の教科等を関連させながら配列します。

 総合的な学習の時間の目標の達成が、学校の教育目標の達成につながるようにカリキュラム・マネジメントを行い、教科等横断的な視点から教育活動の改善を図ることや、学校全体を通した取組を通じて、教科等や学年を超えた組織運営の改善を行うことがいかに重要かを、1年間かけて皆さんと一緒に考えていきたいと思います。(次号に続く)

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◇ 教育時事アラカルト ◇

障害者の権利条約を知っていますか

           教職教育開発センター教授  坂田 仰

 障害者の権利条約は、2006(平成18)年12月、国際連合総会で採択され、2008(平成20)年5月に発効した条約である。
「全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進すること」を目的としている(1条)。

 日本政府は、2014(平成26)年1月に批准書を国際連合事務総長に寄託した。
 批准は、国内法が漸く条約のレベルに達したことを意味すると言ってよいだろう。

 では、学校現場の状況はどうだろうか。
 障害者の権利条約は、教育についての障害者の権利を認め、
「この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する」
としている(24条1項)。
 そして、
「障害者が障害に基づいて一般的な教育制度から排除されないこと」
を求めている(24条2項a)。
 特殊教育から特別支援教育への転換や就学指定制度の変更等を通じて、最低限、障害者の権利条約に適合できたと言えなくもない。

 だが、例えば、「手話」はどうだろう。
 障害者の権利条約は、
「権利の実現の確保を助長することを目的として、手話又は点字について能力を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用し、並びに教育に従事する専門家及び職員(教育のいずれの段階において従事するかを問わない。)に対する研修を行うための適当な措置をとる」
としている(24条4項)。
 しかし、日本の学校現場で、手話を得意とする教員は少数に限られている。それどころか、教員一般を対象とする手話の研修はほとんど行われていない。

インクルーシブ教育システムでは、
「同じ場で共に学ぶことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、その時点で教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備すること」
が強く求められる(中央教育審議会初等中等教育分科会「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」平成24年7月)。
 その実現のためには、まずそれを支える人材の採用、育成について基本から見直していく必要がある。