◆ 目次 ◆ ———————————————————————-
(1) 所長だより
(2) 児童・生徒の理解と指導 ―教師の「視点取得能力」の獲得と育成を中心に―
(3)教育時事アラカルト
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◇ 所長だより ◇
川崎市との学校支援事業と日本女子大学(3)
教職教育開発センター所長 田部俊充
2006年に始まった「学校教育ボランティア学校サポート事業」は、当初は成果を上げていきましたが、次第に参加者が減少していきました。
その理由として考えられたのが、教育委員会主催の学部3年生や4年生を対象とした実践的な教育内容のプログラムの存在です。
教育委員会がこのようなプログラムを次々と立ち上げた背景として、学校現場で即戦力が求められるようになってきたことがあったように思います。「学校教育ボランティア学校サポート事業」の存続が危ぶまれました。
そこで考えたのが、学部1年生、2年生における学校訪問の経験の必修化です。 学部1年生からの学校教育現場での学びと大学での学びの往復(「往還」)により,大学の教職課程の充実を図りたいと考えました。
再び学校や教育委員会,校長会との交渉を重ね、2011年4月の新1年生から、教職(幼・小)を希望する学生を全員連携協力校に派遣する「学校インターンシップ」をスタートしました。
学部1年生を「学校インターンシップⅠ」、学部2年生を「学校インターンシップⅡ」として、幼稚園40名程度、小学校120名程度の計160名を川崎市、東京都狛江市、附属幼稚園、附属小学校等に派遣しました。1年生から授業を参観し、簡単なボランティアを経験し、教職を目指す学生の資質を向上させることを目的としました。
川崎市に加え、狛江市との連携も始めました。
教育委員会訪問を重ね、人間社会学部長と狛江市教育長との間で、2013年3月付けで協定書及び覚書を交わして、派遣を始めました。(続く)
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◇ カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間 ◇
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉
【5】教科等横断的な視点からの教育課程の編成
新しい学習指導要領(平成29年告示)にはいくつかの大きな特徴がありますが、その中でも「教科等横断的な視点からの教育課程の編成」「総合的な学習の時間を軸とした教育課程の編成」の重要性をこれまで以上に強く打ち出しています。
このことは各学校のカリキュラムのデザインやマネジメントの在り方に直接関わる重要なことであり、決して見逃してはならないことです。
なぜ今回の改訂でそのような主張になったのか。
これまでのように教科等ごとの枠の中で個別に培った資質・能力だけをいくら積み上げていっても、これからの社会をたくましく柔軟に生きていくために活用できる力とはならないという課題に、待ったなしで対応しなければならない状況に、今まさにきているということだと思います。
今回の改訂では、教科等の枠の中だけでなく、教科等横断的な視点をもってさまざまな場面で活用できる力を育む必要があることを主張しています。学習指導要領及び同解説の中からそれらに該当する主な部分を拾い上げ、整理したいと思います。
(1) 学習の基盤となる資質・能力の育成
中学校学習指導要領解説「総則編」(以下「解説総則編」)に、
「変化の激しい社会の中で、主体的に学んで必要な情報を判断し、よりよい人生や社会の在り方を考え、多様な人々と協働しながら問題を発見し解決していくために必要な力を、生徒一人一人に育んでいくためには、あらゆる教科等に共通した学習の基盤となる資質・能力や、教科等の学習を通じて身に付けた力を統合的に活用して現代的な諸課題に対応していくための資質・能力を、教育課程全体を見渡して育んでいくことが重要となる。」(「解説総則編」第3章第2節 教育課程の編成 2 教科等横断的な視点に立った資質・能力)
とあります。
中学校学習指導要領第1章「総則」(以下「総則」)には、生徒の日々の学習や生涯に渡る「学習の基盤となる資質・能力」として、「言語能力」「情報活用能力(情報モラルを含む。)」「問題発見・解決能力」等を挙げ、これらの資質・能力を育成していくことができるよう、
「各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。」(「総則」第2の2の(1))
としています。
(2) 学校の教育目標と総合的な学習の時間の目標の関連
各学校の教育目標は、各学校において、教育基本法や学校教育法、学習指導要領、各地区の教育委員会の教育施策の趣旨等を踏まえ、児童・生徒の知・徳・体のバランスの取れた資質・能力の育成を目指し、当該学校の教育目標の実現を目指して、指導内容を選択し、組織し、それに必要な授業時数を定めて編成されます。
各学校の教育課程の編成に当たっては、
「各学校の教育目標を明確にするとともに、第4章総合的な学習の時間の第2の1に基づき定められる目標との関連を図るものとする。」(「総則」第2の1) とされており、「言語能力」「情報活用能力」「問題発見・解決能力」等の「学習の基盤となる資質・能力」を育てるためには、学校の教育課程の基本となる学校の教育目標と、総合的な学習の時間の目標は、密接に関連するものと位置付けることが重要であるとしています。
総合的な学習の時間の目標については、中学校学習指導要領第4章「総合的な学習の時間」(以下「総合的な学習の時間」)において、
「各学校における教育目標を踏まえ、総合的な学習の時間を通して育成を目指す資質・能力を示すこと。」(「総合的な学習の時間」第2の3の(1))
とされており、「中学校学習指導要領解説「総合的な学習の時間編」(以下「解説総合的な学習の時間編」)には、
「各学校における教育目標を踏まえとは、各学校において定める総合的な学習の時間の目標が、この時間の円滑で効果的な実施のみならず、各学校において編成する教育課程全体の円滑で効果的な実施に資するものとなるよう配慮するということである。」(「解説総合的な学習の時間編」第3章第3節)
とあります。
(3) 教科等横断的な視点からの教育課程の編成
(1)でも述べたように、「言語能力」「情報活用能力」「問題発見・解決能力」等の「学習の基盤となる資質・能力」を育てるために必要なこととして、学習指導要領では、これらの資質・能力を育成していくことができるよう、
「各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図るものとする。」(「総則」第2の2の(1))
としています。
また、
「各学校の教育目標を教育課程で具現化していくに当たっては、総合的な学習の時間の目標が各学校の教育目標を具体化し、そして総合的な学習の時間と各教科等の学習を関連付けることにより、総合的な学習の時間を軸としながら、教育課程全体において、各学校の教育目標のよりよい実現を目指していくことになる。」(「解説総合的な学習の時間編」第3章第3節)
としています。
これらのことからも、総合的な学習の時間が、各学校のカリキュラムのデザインやマネジメントの中核になることが明らかです。(次号に続く)
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◇ 教育時事アラカルト ◇
学校のいじめ調査義務
教職教育開発センター教授 坂田 仰
未然防止、早期発見、早期対応、いじめ対応の三原則である。
凄惨ないじめ事件が起きる度に、「学校はなぜいじめの存在を見抜けなかったのか」という批判が巻き起こる。いじめの発見に向けた学校の姿勢が問われていると言ってよい。
いじめ防止対策推進法は、いじめの発見に関わって、学校に対し、
「当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告する」
ことを求めている(「いじめ調査義務」23条2項)。
この条文を理解するに当たって、いじめの早期発見という視点からは二つの文言に注目する必要があろう。
まず、「いじめを受けていると思われるとき」という文言である。
学校は、いじめの存在が「疑われる」段階で調査を開始することが求められている。
そしてこの調査は、「速やかに」行わなければならない。
法律用語としての「速やかに」は、時間的近接性を示す文言であり、訓示的意味合いが強い。同様に近接性を示す「直ちに」と「遅滞なく」の中間に位置し、可能な限り早くという意味合いで理解することが重要と言える。
なお、調査を実施する際には、国の「いじめの防止等のための基本的な方針」(平成25年10月11日文部科学大臣決定、最終改定平成29年3月14日)に留意する必要がある。 同方針は、「いじめは大人の目に付きにくい時間や場所で行われたり、遊びやふざけあいを装って行われたりするなど、大人が気付きにくく判断しにくい形で行われることが多いことを教職員は認識」すべきと指摘している。
教員には、「ささいな兆候であっても、いじめではないかとの疑いを持って、早い段階から的確に関わりを持ち、いじめを隠したり軽視したりすることなく、積極的にいじめを認知する」努力が求められることになる。
いじめは、児童・生徒の生命・身体の安全と直結する問題である。万が一に備え、些細な兆候も見逃さず、積極的な調査を行っていく必要があろう。