◆ 目次 ◆ ———————————————————————-
(1) 所長だより
(2) 児童・生徒の理解と指導 ―教師の「視点取得能力」の獲得と育成を中心に―
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◇ 所長だより ◇
附属豊明小との小大研究協力(1)
教職教育開発センター所長 田部俊充
小大連携の研究協力として、2014年から本学附属豊明小学校に出前授業を行っています。
毎年、5年生の3クラスを対象に、地球温暖化について考える授業をしています。内容は、北極に生まれたホッキョクグマの子ナヌーが、厳しい自然のなかで成長する姿を描いた物語『北極ライフ』に、シンガーソングライターの谷山浩子さんが歌をつけたフォトブック『北極ライフ』(ナショナルジオグラフィック社、2007年)を教材化し、地図帳(帝国書院)を活用して地球温暖化について考えるものです。
第1回の授業の様子は、豊明小のホームページに「社会科小大連携授業【社会科・5年生】」として、以下のように掲載していただきました。
「2014年2月10日(月) 第1校時~第6校時に5年生各クラスにて本学人間社会学部教育学科田部俊充教授による小大連携授業が行われました。
「北極海の氷から地球温暖化について考える」をテーマに地図帳や地球儀、『北極ライフ』という絵本を教材にして地球温暖化問題について、知っていること、知りたいことを挙げていきました。子どもたちからは地球温暖化問題はいつ頃から生じたのかという疑問や、北極に住むシロクマにも自分たちの生活の影響が及んでいることへの驚きが挙がりました。
また、世界各国の地球温暖化への取り組みについての資料を読み取りながら、4年生のゴミ問題を考えていった時の自分たちにできることを考えるという視点からさらに広げ、持続可能な社会の実現の為の社会の取り組みへの参加について考えていきました。
校庭に一昨日に降った雪が残る中、北極海の現状に目を向ける心に残る授業となりました。」(http://www.jwu.ac.jp/elm/topics/2013/20140210.html)
私自身も、最初の授業で出会った児童のみなさんの活発な意見と真剣なまなざしが忘れられません。あの子たちも今は高校2年生。覚えていてくれると嬉しいです。
次回は、附属豊明小学校での出前十授業の最新の様子をお伝えします。(続く)
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◇ カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間 ◇
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉
【8】これからの教育の「コンテンツ」
10月号では、学習指導においては従来のコンテンツベースからコンピテンシーベースへの発想の転換を図る必要があるという主張を紹介しました。
しかし、この主張には以下のような異論があります。
「能力重視が行き過ぎて知識の重要性がおろそかにされていないかは注意深く見ていく必要がある」
「これからの教育で重視されるコンテンツは、個別的・断片的な知識ではなく、各教科で重要とされる概念や原理などの内容を含むものであり、それを深く学んでいくことを重視することが大切である」
今回は、こうした異論の代表的な主張を2つ紹介します。
松下佳代(2014)は、「能力」に関する世界の動向についてのインタビューにおいて、次のように述べています(※1)。
「OECDのアンドレア・シュライヒャー教育局次長は『知識は陳腐化するし、インターネットで検索すればすぐ出てくるのだから、それほど重要ではない』といった趣旨の発言(※2)をしています。」
「現在は日本を見ても世界を見ても、『知識・能力』と言った時に能力の方が強調される傾向にあるのではないでしょうか。ただ、私はそこに疑問を持っており、汎用性があるのは、能力よりもむしろ知識ではないかと考えています」
「(汎用性のある知識とは)それぞれの学問分野で議論されてきた、世の中を理解するうえで必要な概念です。例えば世界経済の状況を見る時に、どんなに批判的思考力を持っていたとしても、貨幣や資本といった経済学の基本的な概念を深く理解していなければ短期的な見方しかできませんよね。しかも、ネットですぐに調べられる浅いところの知識と違って、こうした深いところの知識はそう簡単に陳腐化しないと思います。」
「一方、コミュニケーション力、プレゼンテーション力などと言うと汎用的に聞こえますが、コミュニケーションの中でも裁判におけるディベートと看護師・患者間のやり取りでは全く違いますし、プレゼンテーションも企業の営業担当者と大学の研究者では目的が異なります。そう考えてみると、本当に汎用的な能力があるのかどうかも怪しくなってきます。新しい能力に関わる概念は知識重視への反省から生まれたものですが、能力重視が行き過ぎて知識の重要性がおろそかにされていないかは注意深く見ていく必要があります。」
秋田喜代美(2017)は、世界のコンピテンシー育成の流れと日本の教育について、次のようにインタビューに述べています (※3)。
「子どもたちには、変化にしなやかに適応し、創造的に対処し、多様な価値観を持つ人々とうまく関係を築く力を育てる必要があります。OECDが推進するEducation 2030事業では、従来の教科の内容であるコンテンツをベースとした教育だけではなく、教科横断的な学びを通して、いわゆる非認知的能力を含む汎用的能力を高め、様々な状況に対応する資質・能力をつけることを目指しています。」
「これに関して、以前は『コンテンツからコンピテンシーへ』という言い方がされましたが、現在は『コンテンツとコンピテンシーの統合』という考え方が一般的になっています。依然として教科の内容が重要であることには変わりはないからです。」
「ただし、これからの教育で重視されるコンテンツは、個別的・断片的な知識ではありません。各教科で重要とされる概念や原理などの内容を深く学んでいくことを重視しており、文部科学省が示している『主体的・対話的で深い学び』の『深い学び』につながる考え方となっています。こうしたコンテンツを探究的に学ぶ中で、コンピテンシーは着実に培われていくのです。」
本研究の目的は、コンピテンシーとコンテンツのバランスの取れた教科等横断的な教育課程の編成を提唱することであり、コンテンツを軽視するものではありません。
その観点からもこれらの主張の視点は有意味です。
新学習指導要領(平成29年告示)において、コンピテンシーやコンテンツがどのような位置付けとなっているのかを見る物差し(基準点)として、また、これからの教育のコンテンツの在り方を示唆するものとして重要です。(次号に続く)
【参考文献】
※1 松下佳代:「世界の教育の潮流『新しい能力』とは~松下佳代氏に聞く」:eduview(http://eduview.jp/?p=1320), 2014年6月29日
※2 アンドレア・シュライヒャー:「データに基づく学校改革」:TEDGrobal2012(http://www.ted.com/talks/andreas_schleicher_use_data_to_build_better_schools?language=ja), 2012年
※3 秋田喜代美:「世界のコンピテンシー育成の流れから見た日本の強みと示唆」:教育フォーカス(https://berd.benesse.jp/feature/focus/16-shinkatei/activity2/), 2017年3月15日