カモミールnetマガジン

2020年1月号

◆ 目次 ◆ ———————————————————————-

(1) 所長だより
(2) カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間


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◇ 所長だより ◇

中野区教育委員会との連携協力と国際協力(1)―多文化共生社会に向けての試行

           教職教育開発センター所長  田部俊充

 2019年7月に、中野区の公立中学校の2年生の3クラスで2回ずつ行った、多文化共生を目指す社会科の出前授業(1日目)の様子の報告です。

「北アメリカ州」の学習から発展させ、本時の主題は「移民の受け入れについて自分の意見を持つ」という目標にしました。

 移民受け入れを心配する意見として、
「日本独自の文化が失われてしまう」
「日本人と外国人のはっきりとした差が生まれてしまう」
「日本人のルールが通用しなくなってしまう」
といった意見がでました。

 肯定的な意見は、
「日本は仕事が多く給料が他アジアと比べたら高い。移民を積極的に受け入れるべき」
「少子高齢化が進む中、今のままでは経済が発展していかなくなるので賛成」
「コンビニエンスストアとか24時間開くなら日本人だけでは足りないと思うから」
といった「人材不足だから受け入れるべき」という意見が大勢でした。

 次に移民国家アメリカについて、ニューヨークを事例としながら、自由の女神、独立100周年記念、エリス島にあった移民入国審査所、民族が集まっている様子「サラダボウル」について、ニューヨークのセグリゲーション(住み分け)地図をもとに考えてもらいました。
 最後に、「多様な街で」という東京で働いているフランス人ドライバーに関する新聞記事を扱いました。

  日本で働く外国人労働者は約146万人(2018年10月現在)で、10年前の約3倍です。
  2019年4月に、政府は外国人労働者の受け入れを拡大するという法律をスタートしました。
  安倍首相は移民政策をとらないと動画の中で言っていましたが、実際のところは既に受け入れを拡大する政策をスタートさせ、5年間で30万人以上の受け入れの予定です。
  ところが、現在の日本では「いつでも切り捨てられる労働者として働かせられている」と表現されています。

  次回は出前授業を通して、多文化共生を目指すために中学生が考えてくれたことについて紹介したいと思います。(続く)

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◇ カリキュラム・マネジメントと総合的な学習の時間 ◇

           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

【10】新学習指導要領における「コンピテンシー」

(1)「コンピテンシー」と「資質・能力」
 急激かつ大規模に変化している21世紀の社会はますます予測不能なものになっていき、政治、経済、産業、文化などあらゆる分野で、これまでのやり方をただ繰り返すのではなく、経験したことがない未知の状況においても優れた対応ができる人材が求められています。

 こうした状況を受けて、現在、各国で、21世紀を生きる次世代の子ども達にどのような資質・能力を育成すべきかについての議論が行われ、コンピテンシー(資質・能力)に重点をおいた教育改革が進められています。

「コンピテンシー」は、「単なる知識・技能を指すのではなく、スキルや態度を含む様々な心理社会的リソースを活用・結集し、特定の文脈の中で複雑な要求に対応する能力」(※1)と定義されています。

 また、「コンピテンシーの枠組み(framework)には、OECD DeSeCo のキーコンピテンシー、ATC21S の21世紀型スキル、CCRの「教育の4つの次元」(注1)など様々なものがあるが、いずれも共通しているのは、特定分野の知識・技能だけでなく、汎用的・横断的なスキル(skills) と、何らかの態度・価値(attitudes & values)の育成を主張している点である。」とされています。(※2)  こうした動きは、日本にも影響を与え、学習指導要領の改訂に当たっても議論の主要なポイントとなりました。

(2) 「論点整理」における「コンピテンシー」
 「論点整理【主なポイント】」(平成26年3月)(※3)では、 「現在の学習指導要領に定められている各教科等の教育目標・内容を以下の三つの視点で分析した上で、学習指導要領の構造の中で適切に位置付け直したり、その意義を明確に示したりすることについて検討すべき。ア)~ウ)については、相互のつながりを意識しつつ扱うことが重要。」 とされ、教科等を横断する汎用的なスキルを「コンピテンシー」として位置付けられました。

ア) 教科等を横断する汎用的なスキル(コンピテンシー)等に関わるもの
 1 汎用的なスキル等としては、例えば、問題解決、論理的思考、コミュニケーション、意欲など
  2メタ認知(自己調整や内省、批判的思考等を可能にするもの)
イ) 教科等の本質に関わるもの(教科等ならではの見方・考え方など)
   例:「エネルギーとは何か。電気とは何か。どのような性質を持っているのか」のような教科等の本質に関わる問いに答えるためのものの見方 ・考え方、処理や表現の方法など
ウ) 教科等に固有の知識や個別スキルに関するもの
   例:「乾電池」についての知識、「検流計」の使い方

(3)新学習指導要領における「資質・能力」
 新学習指導要領(平成29年告示)では、「コンピテンシー」という用語は使われていません。それに相当する用語として「資質・能力」が一貫して使われており、その構成要素として、以下のような「学びに向かう力・人間性等」「知識・技能等」「思考力・判断力・表現力等」の3本の柱を設定しています。

  〈1〉学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性等」の涵養
  〈2〉生きて働く「知識・技能」の習得
  〈3〉未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成

 しかし、「資質・能力」という用語は、他にも、「学習の基盤となる資質・能力」(「言語能力」「情報活用能力(情報モラルを含む)」「問題発見・解決能力」)や、「現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力」(注2)、「数学的に考える資質・能力」(数学科の目標)のように様々に使われています。この場合の「資質・能力」は「汎用的なスキル」の意味合いで使われています。

 また、新学習指導要領では、扱う「知識・技能」は「将来に生きて働く知識・技能」であることが重要であり、「思考力・判断力・表現力等」は「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等」(例:数学を活用して事象を論理的に考察する力)(※4)であることが重要とされています。
 「知識・技能」でも「思考力・判断力・表現力等」でも、「汎用的」に使えることが重要という考え方が基盤にあります。そして、総合的な学習の時間において、各教科等で身に付けた「汎用的なスキル」が統合的に活用される学習活動を通して、コンピテンシーとしての「資質・能力」が磨かれていくという考え方です。
 これが新しい学習指導要領が「コンピテンシー・ベース」であると言われる理由となっています。(次号に続く)

(注1)「知識」「スキル(創造性・批判的思考 等)」「人間性(マインドフルネス・好奇心・勇気・レジリエンス・倫理 等)」「メタ学習(学び方を学ぶ)」
(注2)「健康・安全・食に関する力」「主権者として求められる力」「新たな価値を生み出す豊かな創造性」 「グローバル化の中で多様性を尊重するとともに、現在まで受け継がれてきた我が国固有の領土や歴史について理解し、伝統や文化を尊重しつつ、多様な他者と協働しながら目標に向かって挑戦する力」「地域や社会における産業の役割を理解し地域創生等に生かす力」「自然環境や資源の有限性の中でよりよい社会をつくる力」「豊かなスポーツライフを実現する力」

  【参考文献】
※1 Schleicher, A: The Definition and Selection of Key Competencies: Executive Summary, PISA, 2005(https://www.oecd.org/pisa/35070367.pdf)
※2 「コンピテンシーの育成と評価」プロジェクト  ―平成28年度研究活動報告書― : 文部科学省機能強化経費 「日本における次世代対応型教育モデルの研究開発」プロジェクト 報告書 Volume3, 東京学芸大学次世代教育研究推進機構, 2017年3月23日
※3 「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会 ―論点整理―【主なポイント】」, 中央教育審議会, 平成26年3月31日
※4 「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」補足資料, 中央教育審議会, 平成28年12月21日