◆ 目次 ◆ ———————————————————————-
(1) 所長だより
(2) 教育徒然草[新連載]
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◇ 所長だより ◇
遠隔授業の毎日とこれからの授業
教職教育開発センター所長 田部 俊充
東京都では5月22日、新型コロナウイルスへの今後の対応をまとめたロードマップを発表しました。
休校が続く学校についても、最初の段階では分散登校から再開し、全面再開に近づけるため、多くの方々の努力が続いています。頭が下がります。
本学では、5月7日から遠隔授業で前期授業がはじまりました。
形式としては、A:講義資料・課題提示、B:オンデマンド型(manabaでの講義動画の視聴)、C:同時双方向型(manabaとZoomまたはMicrosoft Teams)の3種類の方法で進められています。
manabaとは本学が利用している学習管理システムで、学習教材の配信や成績などを管理を行います。ようやく慣れてきました。
特に映像ミーティングサービスであるZoomは、学部や大学院のセミ指導などに効果があると感じています。多くの学生の授業への集中を感じます。
遠隔授業により,おおげさに言うと授業概念が大きく変わるのではないか,とさえ思います。どのようなアプローチができるのか、この機会に可能性を探りたいです。
教員免許状更新講習のホームページでもお知らせしましたが、8月に開催を予定しておりました2020年度教員免許状更新講習は、中止となりました。
受講者や講師の安全、今後の受講者である現職の先生方がおられる学校現場などの日程等について検討した結果、残念ながら中止の判断に至りました。来年度の開催に向けて尽力してまいります。(続く)
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◇ 教育徒然草 ◇
No.1 ライ麦畑のつかまえ役
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉
私の大好きな本にJ.D.サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」※1があります。
16歳の少年ホールデン・コールフィールドがクリスマス前のニューヨークの街を人との繋がりを求めながらも苦悩し彷徨う物語です。
訳者は、「ホールデン少年が最も敏感に嗅ぎわけて、最も烈しい嫌悪と侮蔑を示すのは、(略)精神の下劣さ低俗さ、根性のきたなさ、そこから来る糊塗、欺瞞、追従といった性質のものである。その不潔さを、思弁的に決定するのではなくて感覚的に感じとり、反射的に反撥するのだ」「もちろん子供の夢に全身をひたしている少年ではある。だから(略)妹のフィービーはもちろん、博物館で会う子供でも、スケート靴をはいている少女でも、教会帰りの少年でも、およそ子供には全身的共感を彼は示す。」と解説しています。
私がこの翻訳本と初めて出会ったのは高校生のときです。特に強く印象に残ったのは、ホールデンがベッドに腰かけて幼い妹のフィービーに話しかけている場面です。
「とにかくね、僕にはね、広いライ麦の畑やなんかがあってさ、そこで小さな子供たちが、みんなでなんかのゲームをしているところが目に見えてくるんだよ。何千っていう子供たちがいるんだ。」
「で、僕はあぶない崖のふちに立ってるんだ。僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ。つまり子供たちは走ってるときにどこを通ってるかなんて見やしないだろう、そんなときに僕は、どっからか、さっととび出して来て、その子をつかまえてやらなきゃならないんだ。一日じゅう、それだけをやればいいんだな。ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。馬鹿げてるのは知ってるよ。」
教職課程の学生と、教員の志望動機について話す時があります。
この一節が私が教員になる大きなきっかけになったと話すと、驚いた表情をして「そのようなことを面接で答えてもよいのでしょうか。」と尋ねる学生がいます。
もし私が受験生なら、もちろんそう答えますよ、と私は言います。何しろ今も、ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに私はなりたいのですから。
【参考文献】
※1 J.D.サリンジャー著 野崎孝 訳: 『ライ麦畑でつかまえて』(新しい世界の文学20), 白水社, 1964年