カモミールnetマガジン

2020年7月号

◆ 目次 ◆ ———————————————————————-

(1) 所長だより
(2) 教育徒然草

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◇ 所長だより ◇

高校教育改革と地理総合① 50年振りの復活
           教職教育開発センター所長  田部 俊充

 2022年4月から実施される新学習指導要領で高等学校地理歴史科と公民科には、「地理総合」「歴史総合」「公共」という必履修科目が新設されますが、ご存知ですか。
 私の専門は社会科教育のなかでも地理教育ですが、地理の必履修は実に50年振りです。

 古い話ですが、1970年告示(1973年実施)の学習指導要領で、「地理A」(3単位)と「地理B」(3単位)が設置され、「世界史」、「日本史」とともに選択科目(世界史、日本史、地理Aもしくは地理Bから2科目)となり、それ以来、高等学校において地理は必履修科目ではなくなっていました。

 その後、1989年告示の学習指導要領で高等学校社会科が地理歴史科と公民科に分離され、地理歴史科は世界史A、B、日本史A、B、地理A、Bの6科目構成(Aが2単位、Bが4単位)となり、世界史のみが必履修科目となると、入学試験科目として地理を設置しない大学が増え、高校での地理の履修者も減っていました。今度の改訂で「地理総合」が必履修化されると、地理の履修者や入学試験での地理受験者も増加するでしょう。

 地理歴史科は、空間認識と時間認識をバランスよく総合する人材育成を目指す教科で、空間軸・時間軸をそれぞれ学習の基軸とする「地理総合」と「歴史総合」が必履修科目に位置付けられました。

 「地理総合」の柱は、(1)地図と地理情報システムの活用、(2)国際理解と国際協力、(3)防災と持続可能な社会の構築、の3点が示されています。次回は、(1)地図と地理情報システムの活用について触れていきます。(続く)

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◇ 教育徒然草 ◇

No.3 アバター学習
           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

 「アバター」(avatar)は、化身、具現、権化などの意味を持つ英単語です。語源はヒンドゥー教の神の化身のことで、ITの分野では利用者のシステム内での分身として画面上に登場するキャラクターなどのことを指します。(IT用語辞典 e-Wordsより)

 ジェームズ・キャメロン監督のSF映画の「アバター」は、膨大な利益をもたらす鉱物が眠る惑星「パンドラ」の利権をめぐって、主人公の元兵士ジェイクが、人間とパンドラの先住民ナヴィのDNAを組み合わせた「アバター(分身)」に、自身の意識を送り込む「アバタープロジェクト」に参加するというSF映画です。
 また、スティーブン・スピルバーグ監督も「レディ・プレイヤー1」で キャメロン監督とはまた違った角度からアバターを描きました。

 コンピュータ・ゲームにおけるアバターの魅力は、仮想現実において自分を模したキャラクターを自由に活躍させることができるところです。困難な場面に遭遇し、それを克服するために苦労するのは、実際の自分ではなく仮想上の自分の分身ですので、ある意味気楽なのです。自分であって自分でない自分が、自分の代わりに活躍して、それで自分が満足を得るという魅力です。

 教育の場面でも、ネット上の分身であるアバターが身代わりとなって学校に通うバーチャルスクールがあります。
「ネットゲームのような感覚の新しいスタイルの通信制高校」という触れ込みで、千葉市の明聖高等学校が、通信制高校の新たなコースとして「サイバー学習国」というWebコースを設置しています。生徒は500種類以上のパーツから選んでオリジナルのアバターを作り、自分のペースでパソコンやスマートフォンで仮想学園の動画授業を視聴しながら高校卒業の資格取得を目指します。

 現在、新型コロナウイルス感染症が収束しない中、本学でも遠隔授業を行っています。私は、担当する授業ではPDFのスライドを多く使いますが、「いなば先生」というキャラクターを登場させています。
「いなば先生」がコミックの吹き出しを使い、学生に語りかけるように解説したり、質問したりします。
 学生からは「実際に授業を受けているように学習できる」と概ね好評です。「いなば先生」は私のアバターです。私であって私でない私が「人格」を持って授業を進めています。
 そして、学生も自分のアバターを作り、仮想教室に出席して学習しているのです。ある学生のレポートの中に「私は普段は引っ込み思案なのですが、この授業の中で私は心が解放され、自由に発言ができます。」と語っていました。

 先ほど紹介した明聖高等学校では「実社会とのつながりを生み出すことで、ゲームの世界だけに引きこもらせないオンラインスクールを目指している」ということです。
 実際に「ネットに出て来る先生に会いたい」と言って登校して来る生徒も少なくないということです。
 私の授業の受講生の中にも「対面授業になったら先生とお会いしてお話を聞きたいです」と言ってくれる学生がいます。嬉しくもあり、不安でもあります。授業の中の「いなば先生」は私のアバターであり、現実の私ではないからです。

 文部科学省は、ポストコロナの教育として「ICTを活用しつつ、教師が対面指導と家庭や地域社会と連携した遠隔・オンライン教育等とを使いこなす(ハイブリッド化)ことで協働的な学びを展開する」ことを進めようとしています。新型コロナウイルス感染症の蔓延を機に、今、日本の教育は「社会とつながる個別最適化された協働的・探究的な学び」へと大きく方向転換しようとしています。