◆ 目次 ◆ ———————————————————————-
(1) 所長だより
(2) 教育徒然草
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◇ 所長だより ◇
高校教育改革と地理総合③ 地図と地理情報システム(GIS)の活用(2)
教職教育開発センター所長 田部 俊充
8月号でお伝えした大学でのGISの授業の続きです。
授業では国土地理院の「土地利用」の機能も活用してもらいました。
「地図」ボタン、「土地の成り立ち・土地利用」「土地条件図」「数値地図25000」の各ボタンをクリックすると、「土地条件図」により「台地・段丘」などをみることができます。iマークの「凡例」をクリックするとどのような土地に分類されているかがわかります。
日本女子大学目白キャンパス内は、ほとんど(約1万年前よりも古い時代に形成された)更新世段丘、神田川沿いの谷底平野である早稲田大学周辺はほとんどが人工地形(盛土地・切土・埋立地)に分類されていることがわかります。
更新世段丘は一般に低地に比べて河床からの比高が大きいため水害を受けにくく,地盤も良いため震災を受けにくい地形とされています。
次に母校の標高と土地利用についても調べてもらい、比較してもらいました。以下は学生のコメントの抜粋(一部改変)です。
「今回の課題で最も興味深かったのは,母校と目白地区の地理環境の比較だ。同じ関東圏でも全く周囲の環境が異なることに驚いた。そして、地理的環境もまた教育の在り方に大きな影響を与えるのではないかと考えた。私の小学校は西に山地が広がっていることから、山に関する学習が盛んであり、山の名前を冠した特別な科目(山信仰や地域の歴史を勉強する)まであった。このようなカリキュラムは地理環境が教育に影響を与えていることの表れであると思う。母校の教育は上記のようなものだったが、おそらく目白地区には目白地区の地理環境にあわせた教育が展開されていることだろう。地形と教育の関係について深く勉強してみたいと思った。」
私の授業での意図がしっかり伝わり嬉しかったです。73名の受講生は大半が標高を意識したことはなかったので、「新しい学び」となりました。
このGISを「深い学び」につなげるためには、地形や地域に関する専門的な知識を学ぶこと、学習指導案やカリキュラムでの位置づけ、学習目標・内容・方法・評価との関連付けを示し、事例を蓄積・共有していくことが必要です。実践されたら感想を寄せてくださるとうれしいです。(続く)
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◇ 教育徒然草 ◇
No.4 ポストコロナの学校教育 -特別活動の質を高める-
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉
特別活動のねらいは、児童・生徒が望ましい集団活動を通して、集団や自己の生活、人間関係の課題を見いだし、解決するために話し合い、合意形成を図ったり、意思決定したりすることができるようになることです。
今でも、特別活動は望ましい集団づくりをねらいとしているという誤解があります。確かに望ましい集団づくりや集団活動はとても重要です。しかし、それらは最終的な目的ではなく、一人一人の児童・生徒の資質・能力を育てるためのプロセスであり手段なのです。
日本では、明治時代から、各学校では、修学旅行や運動会などの学校行事が独自に企画され、その教育的意義が認められていました。また、運動部などの部活動が設立され、学校内の自治的な活動も盛んになってきました。
第二次世界大戦後、学習指導要領の試案が発表され、「自由研究」という教科に統合されました。その直後の学習指導要領の改定では、「自由研究」は廃止され、小学校では「教科外の活動」に、高等学校では「特別教育活動」に再編されました。
1958(昭和33)年に「文部省告示」という形で出された学習指導要領では、小学校・中学校・高等学校を通して「特別教育活動」に名称が統一されました。この時は学校行事が含まれていませんでしたが、1968(昭和43)年に告示された学習指導要領では、学校行事も含まれて「特別活動」という名称に変更されました。
新しい学習指導要領の目玉の一つに「教科等横断的な視点からの教育課程の編成」があります。
変化の激しいこれからの社会で未知の状況にも対応できる汎用的な資質・能力としての「問題発見・解決能力」を育成するために、各教科等の特質を生かし、教科等横断的な視点からの教育課程の編成を図ることが重要であるとしています。 各教科等の学習の質をこれまで以上に高め、「教科における汎用的な資質・能力」を育て、さらにそれらを総合的に活用する「横断的・総合的な学習」を通して「未知の状況にも対応できる汎用的な資質・能力」を育てようとしています。この「横断的・総合的な学習」を担うものとして大きな期待がかけられているのが、総合的な学習の時間とともに特別活動なのです。
文部科学省は、ポストコロナの教育として、GIGAスクール構想(一人一台の端末)を進め、教師が対面指導と遠隔・オンライン教育等とを使いこなすハイブリッド化を進めようとしています。
知識・理解の学習は、児童・生徒のスタディ・ログ(学習履歴)をAIが分析する「個別最適化された学び」でも可能でしょう。しかし、学校教育は全人的な教育です。これからの教育を考えると、個別的な知識・理解の学習(デジタル教育)と、人との関わりを通して行われる協働的・問題解決的な学習(アナログ教育)をうまく両立させる必要があると思います。前者は学校でなく家庭でもできる部分があるでしょう。しかし、後者は学校でないとできません。
ポストコロナの教育は、人との関わりや協働を縮小するものであってはなりません。しかし、それらを行う時間や場所は制限されるかもしれません。もし、そうであるならば、AIによる個別最適化された各教科の学びは家庭等で行い、学校では教科の枠を超えた総合的な学習の時間や特別活動に重点を置いてはどうでしょう。そこに学校教育の意義を見出してはどうでしょう。
そのためにも、特別活動に新たな光を当てたいと思います。「学級活動」(高等学校では「ホームルーム活動」)、「生徒会活動」(小学校では「児童会活動」)、「学校行事」の質を高める学校教育の在り方の実践的研究に力を入れていきたいと思います。