カモミールnetマガジン

2021年1月号

◆ 目次 ◆ ———————————————————————-

(1) 所長だより
(2) 教育徒然草

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◇ 所長だより ◇

東南アジア・オセアニアの学習
           教職教育開発センター所長  田部 俊充

 2020年11月22日に、日本地理学会シンポジウム「世界地誌学習の新たな方向性―東南アジア・オセアニア―」の企画オーガナイザーと司会進行を行いました。
 世界を学ぶ際に、「何のためにこの地域を学ぶのか」、「どう学んでいくのか」、児童・生徒の好奇心や関心を積極的にかきたてる必要があると考えます。
 
 昨年9月20日に発足した菅内閣において、10月18日に首相就任後最初の訪問地がベトナム、10月20日にインドネシアを訪問したことにも象徴されているように、東南アジアへの日本の注目度は高いです。
 日本は環太平洋経済連携協定(Trans-Pacific Partnership Agreement: TPP)や東アジア地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership: RCEP)の中核としての世界的動向を見直すことが必要となっています。

 シンポジウムでも繰り返し出てきたのが、RCEPです。
 RCEPは、ASEAN加盟10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)、その自由貿易協定(Free Trade Agreement: FTA)パートナー5カ国(オーストラリア、中国、日本、ニュージーランド、韓国)の間で提案されている、アジア太平洋地域の自由貿易協定です。
 世界の人口の3割、世界のGDPの3割を占める15カ国が交渉に参加しています。2020年11月15日に第4回RCEP首脳会議の席上で協定は署名されました。

 世界地誌の学習のなかで東南アジアとオセアニアを扱う際の課題は、東南アジアとオセアニアは別々に学習しているため、その近接性が見えづらい点です。
 例えば、インドネシアとオーストラリアは、地理的には近く、貿易面でも友好な関係があります。行動様式も似通っている点がたくさんあります。
 しかし、違っている部分もあるので、「なぜ行動様式がちがうのか」「なぜそのような考え方をしているのか」ということを考えるのが大切です。

 2021年1月15日のテレビ東京の番組「ワールドビジネスサテライト」では、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、「ビジネス往来」の枠組みでの入国の多くを占めるのが東南アジアなどからの技能実習生で、コロナ渦で技能実習生や留学生の困窮が深刻であることが報道されていました。
 今後の課題としては、つながりの深まる東南アジアやオセアニアからの技能実習生や留学生も含めた「多文化共生社会」を志向する教育を考えていきたいと考えています。

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◇ 教育徒然草 ◇

No.8 主体的に学習に取り組む態度
           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

 どのくらい前のことだったでしょうか。授業が終わって、研究室に帰りかけた時、ある学生が、先生、ちょっとお話いいですか、と話しかけてきました。
 何やら険しい表情でしたので、どうしたのか話を聞いてみると、あるブログを見ていたら「関心・意欲・態度」の評価を上げる方法というのが載っていて、それも保護者対象に現役の教師が書いたもので、怒り心頭に発する思いだ、とのことでした。

 その学生は、とても早口で次のように話しました。  ブログは「関心・意欲・態度」の評価を上げる具体的な方法として3つ挙げていました。
 1つ目は「授業中に頭を下げない」
 2つ目は「提出物は絶対に丁寧に作る」
 3つ目が「休み時間に先生に質問しに行く」。
 これってどうなんでしょう。現役の教師が保護者に「関心・意欲・態度」の評価を上げるテクニックを教えるなんて不謹慎ですよね。先生はどう思いますか。

 私はその時は、「そうですね、テクニックとして教えることではないと私も思います。」というようなことを言ったと思います。
 しかし、最近になって、ひょっとしたらその先生はとても深いところまで考えていて敢えてそのような言い方をしたのかもしれない、と改めて思ったのです。

 昭和52・53年の学習指導要領の改訂の際には、指導と評価が知識・理解に偏りがちである現状を改め、学習意欲の向上や自ら実践しようとする態度の育成を重視するという趣旨により観点別学習状況の評価が導入され、全ての教科で「関心・態度」が評価項目の最後に位置付けられました。
 例えば、中学校国語では「表現の能力」「表現(書写)の能力」「理解の能力」「言語に関する知識」「国語に対する関心・態度」となりました。
 しかし、実際には、何を「関心」とし、何を「意欲」とするのかという評価の難しさがあり、あまり重視されませんでした。

 平成元年の学習指導要領の改訂では、「新しい学力観」が打ち出され、自ら学ぶ意欲の育成や思考力、判断力等の能力の育成に重点が置かれました。そして「観点別学習状況の評価」がより重視され、どの教科も共通して「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技能・表現(または技能)」「知識・理解」の4観点が設定されました。「関心・意欲・態度」は、その重要性を明示するために、一番初めに置かれました。しかし、その評価の方法は難しいとされたままでした。

 その後、平成10・11年の学習指導要領の改訂の際には、「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技能・表現」「知識・理解」となり、平成20・21年の学習指導要領の改訂の際には、「関心・意欲・態度」「思考・判断・表現」「技能」 「知識・理解」 となりました。そして平成29・30年の学習指導要領の改訂の際には、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点となりました。

 「主体的に学習に取り組む態度」は、学校教育法第30条2で規定されているように、学力の3要素の一つです。
 児童生徒の学習意欲について課題がある我が国の状況を鑑みると、児童生徒が主体的に知識・技能を身に付けたり、思考・判断・表現をしようとしたりしているかを見るという趣旨の評価の在り方を追究することは重要であり、それは、児童生徒が意欲的に取り組めるような授業構成と継続的な授業改善を教師に促していくためにも極めて重要なことです。

 平成29・30年の学習指導要領の改訂の趣旨に基づいて、「主体的に学習に取り組む態度」の評価については、「よりよく学ぼうとする意欲をもって学習に取リ組む態度」を評価するという趣旨を改めて強調すべく、新しく「粘り強い取組を行おうとする側面」と「自らの学習を(省察し)調整する側面」という概念が導入されました。
 そして、その具体的な評価の方法として、「ノートやレポート等における記述、授業中の発言、教師による行動観察や、児童生徒による自己評価や相互評価等の状況を教師が評価を行う際に考慮する材料の一つとして用いることなどが考えられる。」とされました。かなり無理のある考え方で、学校現場が混乱するのは必至です。

 「主体的に学習に取り組む態度」は非認知能力です。学習意欲といった児童生徒の内面を数的・量的に捉えることは難しいのです。
 学習の評価で大切なのは、観点別評価や評定にはなじまないものに無理やり評価規準を設けてA、B、Cを付けることではありません。
 一人一人の児童生徒に、これまでの努力を認め称賛した上で、学習のどこに課題があり、その課題を克服するにはどのように取り組めばよいのかを、単元(題材)ごとに「個人の学習評価カード」等を作り、データを元に具体的に教師の言葉で助言し励ますこと(個人内評価)です。同時に、教師自身が自分の指導方法・内容を謙虚に振り返り、改善を考えることです。
 冒頭で述べた教師の「不謹慎」なブログも、実は、これらのことを見据えた上で悪戦苦闘している取り組みの一端であったのかもしれません。