◆ 目次 ◆ ———————————————————————-
(1) 所長だより
(2) 教育徒然草
(3) 教育時事アラカルト
▼——————————————————————————-
◇ 所長だより ◇ 今回はお休みです。
▼——————————————————————————-
◇ 教育徒然草 ◇
No.9 教職の魅力
家政学部児童学科特任教授 稲葉 秀哉
昨年(2020年)の12月号を読んでいただいた読者の方から次のようなお便りをいただきました。ご紹介します。
——————–
教職課程履修大変ですか? 先輩より!
教員になれるとは思ってませんでしたが、結局24歳から現在まで40年間、中学生と過ごしてきました。
可能性の言葉がピッタリの中学生。いつも生徒のために頑張ってしまう自分がそこにいました。優秀でもなかった目立たない学生でしたが、教壇に立ってからは、子供達に育ててもらいました。
今も老眼の目で何度も教科書を見直す毎日です。コロナで遅れた教育課程、追い付くのは大変でした。可能性のために、子供達のために頑張りました。諦めるのは早すぎです。お楽しみはこれからです。
沢山の恩師、先輩や仲間、そして教え子は皆、自分を育ててくれた大切な恩師です。教員にならなくても寄り道しながら自分流の生き方が見つかるような気がします。
人は人と関わってはじめて人になる。64歳の今年、コロナ禍の中、教員免許更新講習を受けました。世間のお役にたてる限り、後続のため教育に関わりたいです。
——————–
教職課程の履修をやめようかと考えている学生へのメッセージとしてお寄せいただいた文です。
「可能性のために、子供達のために頑張りました。諦めるのは早すぎです。お楽しみはこれからです。」
何と素敵な言葉でしょう。目の前がパッと明るく開かれる思いがします。悩んでいる学生が、この言葉を読んでくれればと思います。そして、私もこの読者の方と同年代ですが、私自身に言っていただいているような気がします。
先日、自宅の古い洗面台が突如大きな音を立ててヒビ割れて使えなくなりました。すぐに業者さんに連絡して工事の段取りをしました。
数日後、工事が終わった後、妻が、あなたは中学校の先生でよかったわね、と言いました。私は、そうだね、と答えました。その業者さんは、私の中学校の教員時代の教え子だったのです。
振り返ってみると、これまで自宅の補修に関わった屋根屋さん、電気屋さん、水道屋さんは皆、私の教え子です
。 特段の便宜を図ってくれるわけではありませんが、気心が知れているので、細かいところまで相談ができます。本当にありがたいことです。しかしながら、私が教師をやっていてよかったと思う理由はこれだけではありません。これだけではないと言うより、これではありません。
教え子も歳を重ね、私が最初に受け持った生徒は、今は50代になっています。
同窓会の時に、
「僕はね、あの時の先生の判断は正しかったと思うんですよ。」
と言い出す教え子がいます。
「いや、私はおかしかったと思う。」
と言う教え子もいます。
生徒同士のトラブルがあった時に、担任であった私が下した判断についてです。つい、昨日のことのように思い出すことができます。それから40年近く経って、当時の担任としての私の判断の是非が教え子たちによって評価されるのです。これは結構厳しいものがあります。
「そうか。私はその時はそれが一番いいと考えたんだよ。」
と私も一緒になって話し出します。
教育は百年の計とはよく言ったものです。生徒の将来を見通し実践したことの振り返りや、生徒の成長をこのように見られるのは本当に嬉しいものです。読者の方と同じように、これが私の考える教職の魅力です。
▼——————————————————————————-
◇ 教育時事アラカルト 第85回 ◇
飲酒運転懲戒処分と退職手当
教職教育開発センター教授 坂田 仰
まもなく年度末、今年も歓送迎会のシーズンを迎える。
新型コロナの影響がなければ、街に繰り出す人はさぞ多いことであろう。そこに飲酒運転の誘惑が待ち受けている。「自分はアルコールに強い」という安易な思い込みが教員生活に大きな影響を与えることになる。
文部科学省の調査によれば、2019年度中に飲酒運転を理由に懲戒処分を受けた教職員は56人、その内訳は懲戒免職が34人、停職が22人である(令和元年度公立学校教職員の人事行政状況調査について)。
懲戒免職処分が6割以上を占めており、懲戒免職になった者が一人もいなかった体罰に比較し、極めて重い処分となっている。
では、懲戒免職処分を受けた場合、退職手当(退職金)はどうなるのだろうか。
地方公務員の退職手当については、地方公共団体の条例により定めることになっている(地方自治法204条第2項、第3項)。
しかし、退職手当の支給制限を認める国家公務員退職手当法第12条第1項に準じた規定を設けている地方公共団体が多い。厳しい自治体では、全額不支給とかする自治体も存在するほどである。
とは言え、懲戒免職となり生活の糧を奪われた上、退職手当の全部が不支給となった場合、たちまち生活が行き詰まることは疑いない。酒気帯び運転と酒酔い運転の区別、そして事故のありなしと多様な形態が存在する中、事案に応じた対応が求められるはずである。
この点が争われた例として、高等学校教員懲戒免職処分・退職手当不支給処分取消請求訴訟がある(長崎地方裁判所判決平成31年4月16日)。
長崎県下の公立学校に勤務する教員が、酒気帯び運転を理由に懲戒免職、一般退職手当の全部不支給の処分を受け、これら処分の取消を求めた事案である。
退職金の支給制限について、判決は、「酒気帯び運転の行為は、故意の犯罪行為であり、その動機は安易で、その態様も危険なものであって、原告はこれにより罰金刑という刑事処罰も受けていること、公立学校教諭という原告の職責に照らして本件非違行為は児童生徒及び保護者ひいては社会一般に対する公教育の信用を大きく損なうもので、公務の遂行に与える影響も小さくないといえること」から、非違の抑止の観点に鑑み、退職手当の支給が相当程度制限されることはやむを得ないとする。
しかし、酒気帯び運転の行為に計画性はうかがわれないこと、職務と関連しない私生活上の非違行為であって、物損、人身を問わず事故を伴っていないことなどからすると、「その内容及び程度の点で、酒気帯び運転のうちでも重大、悪質な部類に属するものとまではいい難い」とし、退職手当の全部不支給についてはこれを取り消している。