カモミールnetマガジン

2021年3月号

◆ 目次 ◆ ———————————————————————-

(1) 所長だより
(2) 教育徒然草

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◇ 所長だより ◇

明日に架ける橋
           教職教育開発センター所長  田部 俊充

 日本地理教育学会2020年12月例会は、「農業・農村と地域学習」というテーマでオンラインで開催されました。
 「小学校における農業体験学習の意義-第3学年社会科『農家の仕事』における農業体験学習実践をもとに―」というタイトルで、本メールマガジンの昨年の4月号でも紹介させていただいた卒業生の鎮西さんと4年生の小野さんと私で共同発表を行いました。

 神奈川県秦野市の小学校に勤務する鎮西さんが、フィールドワークによる出会いを大切にし、地域と連携した食育、たけのこ、小松菜生産者との出会いを中心に取り組んだ第3学年社会科の10時間の授業を報告してくれました(鎮西2020)(※1)。

 卒業論文でこの実践に興味を持った4年生の小野さんに鎮西さんを紹介したところ、「よりESD的な」授業実践に向け、授業分析を活用する新しい授業開発をしてくれました。
 例えば「将来世代への責任」「③未来志向思考」について、「地産地消」(地元で生産されたものを地元で消費する)について扱うことが考えられます。

 日本経済新聞2021年3月4日版は「『持続可能な食』は地域循環から」という記事で注目すべき内容が含まれていました。
 「気候変動対策としてエネルギー分野ばかりが注目されるが、食料生産が環境に与える影響も大きい」とし、「食料のサプライチェーン(供給網)から出る温暖化ガスは世界の排出量の約4分の1を占め」、「畜産業の排出が最大」、「メタンガスの放出、飼料生産や牧草地拡大のための森林破壊、輸送や加工による二酸化炭素(CO2)の排出が課題」という記事です。
 国連の持続可能な開発目標(SDGs)で、生態系への負荷の少ない安定した食料生産や健康な生活は重要な柱となっており、授業で農業や地産地消を扱うことは時宜にかなっていると感じました。

 日本ではかつて、農耕と組み合わせた「地域循環」が成り立つ環境負荷の小さい小規模な畜産がいたる所にみられました。
 いまは大量の水や農薬、化学肥料で栽培した飼料を遠くから運んで家畜に与え、ふん尿もエネルギーをかけて処分しているため、畜産品を安く供給できる半面、環境負荷は重くなっているのです。
 畜産業をはじめ農業に「地域循環」を取り戻していくことが重要で、地域循環を取り入れた食、「地産地消」が有効な手段として注目されているのです。

 教育学科の会だより「葦」にも書かせていただきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、オンラインでの学習の必要性は高まっていますが、鎮西さんには体験学習の大切さ、特に本物の「人」とふれあう大切さについて論じていただき、それを再確認するとともに、中学校、高等学校の先生方や地理学者など多様な専門家の方とも意見交換をする機会となりました。ありがとうございます。

 コロナ渦で心がめげそうになったとき、思い浮かんだのは大好きなサイモン&ガーファンクルの『明日に架ける橋』です。冒頭の一節を私なりに解釈してみました。

ひどく疲れ 自分が小さくなってしまったと感じるとき 
そんな時でも あなたが目に一杯涙をためているときには
私があなたの涙を全部乾かしてあげよう 私はあなたの味方だ 

 情景を思い浮かべるだけで心が温まります。
 この歌やビートルズやクイーンの曲をみなさんと心から歌える日々が戻って欲しいと心から願っています。
 これからも卒業生のみなさんとともに研究や交流に取り組み、少しでも明日に向かって橋が架けられたら嬉しいです。
 今後も教職教育開発センターへのご協力をよろしくお願い申し上げます。

【参考文献】
※1 鎮西真裕美, 「子どもと地域を結ぶ体験学習―第3学年社会科『農家の仕事』から自らのあり方を考える子をめざして―」; 日本女子大学教職教育開発センター年報, Vol.6, pp.63-70, 2020

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◇ 教育徒然草 ◇

No.10 教師と生徒が一緒に取り組む「主体的に学習に取り組む態度」の評価
           家政学部児童学科特任教授  稲葉 秀哉

(1) 「主体的に学習に取り組む態度」の評価の趣旨
 報告(注1)などでは、評価の趣旨・ねらいを「(生徒が)自らの学習状況を把握し、学習の進め方について試行錯誤するなど自らの学習を調整しながら、学ぼうとしているかどうかという意思的な側面を評価する。(報告)」としています。
 また、改善通知(注2)では、「知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組の中で、自らの学習を調整しようとしているかどうかを含めて評価する。」としています。

(2) 「粘り強い取組」とは何か
 「粘り強い」を「あきらめない」「がまん強い」というような情意的・非認知的な言葉に置き換えて理解しようとしても、客観的な評価規準をどう設定したらよいのか、評価の材料を何にしたらよいのか、などとこれまでと同様に苦慮します。また、「取り組む時間が長い」と捉えるのも短絡的な感じがします。
 そこで、ここは思い切って、「粘り強い取組」を「学習のPDCAサイクルの発展的・継続的な繰り返し」と捉えてはどうでしょう。
 生徒が「学習のPDCAサイクル(P:見通しを持って目標を立てる、D:実践する、C:振り返り、課題を見つける、A:改善する)を発展的・継続的に繰り返していく」という具体的・認知的な活動を計画的・継続的に行っているかどうかを見る、と捉えてはどうでしょうか。

(3) 「自らの学習を調整」とは何か
 この「調整」という言葉に戸惑いを感じている現場の学校が多いようです。難しく考えずに、「工夫」と捉えてはどうでしょう。
 「自らの学習を調整しようとしている」を「自らの学習を工夫しようとしている」と捉え、生徒が自ら多様な学習の工夫を続けながら取り組んでいるかどうかを見る、と捉えてはどうでしょうか。
 「生徒が具体的な学習の工夫のアイデアをそれぞれ出し合い、それらを共有しようとしている」という意味合いとするのです。この場合の「工夫」は、生徒の日常的で現実的な「工夫」で、塾や上級生、保護者、友人などからの学習上のアドバイス(学習スケジュールの管理、マーカーペンの活用、図式化の工夫、誤答の活用等)を含みます。

(4) 評価規準の一本化
 上記の(2)、(3)から、「主体的に学習に取り組む態度」の評価規準を次のように平易な形で一本化することを提言します。

「主体的に学習に取り組む態度」の評価規準:
 「学習のPDCAサイクルを発展的・継続的に繰り返し、工夫しながら学ぼうとしている。」

(5) 評価の進め方
 教師は、生徒に「主体的に学習に取り組む態度」についても評価することを事前に伝え、評価規準は「学習のPDCAサイクルを発展的・継続的に繰り返し、工夫しながら学ぼうとしている。」であることを伝えます。
 「学習のPDCAサイクル」の大切さを生徒に意識させ、生徒は多様な学習の工夫例から、自分に合いそうなものを選び(またはアレンジして)、学習目標を達成するための方略とします。例えば、生徒は次のような評価規準と評価項目(評価の材料)を設定します。

「主体的に学習に取り組む態度」の評価の例
◎「評価規準」:
 「学習のPDCAサイクルを発展的・継続的に繰り返し、工夫しながら学ぼうとしている。」
◎「評価項目」:
 ①「予習は教科書を読み、疑問なところや分かりにくいところに付箋を貼る。」
 ②「分からないところは先生や友達に聞く。」
 ③「復習は、間違えたところやできなかったところを重点的にやり直す。」
 ④「①から③のことを繰り返して行う。」

 このように評価項目・材料を身近で具体的なものに設定することで、生徒は自己評価や相互評価ができやすく、また、教師もそれらを見取りやすいでしょう。生徒は、単元(題材)ごとに、まずは①、②、③、④をA、B、Cで自己評価します。

(6) 個人内評価の充実  生徒が発展的・継続的に学習を行うには、内発的な学習の動機付けが必要であり、それを担保する教師の指導が必要となります。
 目標に準拠した評価や観点別学習状況の評価の本来の趣旨は、「生徒の励みになる評価」です。
 従って、教師は、一人一人の生徒に、これまでの努力を認め称賛した上で、学習のどこに課題があり、その課題を克服するにはどのように取り組めばよいのかを、単元(題材)ごとに示すことが重要となります。
 例えば、「個人の学習評価カード」を作り、生徒の自己評価等の分析データを元に、生徒の学習上の良い点や可能性についても積極的に評価し、具体的に教師の言葉で助言し励ますことが有用となります。この「個人内評価」の充実が、生徒の学習意欲が向上し、継続するための原動力につながるのです。また、教師自身の指導力の向上につながるのです。

(注1) 報告:「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」 平成31年1月21日 中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会
(注2) 改善等通知:「小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)」 平成31年3月29日 初等中等教育局長通知