カモミールnetマガジン

2021年6月号

◇◆ 目次 ◆◇ ——————————————————————

(1) 所長だより
(2) 教育時事アラカルト

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◇◆ 所長だより ◆◇

『窓際のトットちゃん』を通して考える子どもの学びの姿
           教職教育開発センター所長  清水 睦美

 『窓際のトットちゃん』は、ご存じ黒柳徹子さんが通った小学校トモエ学園で過ごした日々を綴った自伝的作品です。出版は1981年で、累計800万部、世界30カ国以上で翻訳された大ベストセラーで、今年40周年を迎えます。
 これを記念して、朝日新聞夕刊の「時代の栞」で取り上げるのでコメントをほしいと取材の依頼を受けました
。  そのようなわけで、私自身も本当に久しぶりに『窓際のトットちゃん』を読み返すことになりました。新聞記事のためのコメントは掲載記事(朝日新聞6月2日(水)夕刊3面)をご覧いただくとして、ここではそこから漏れ出てしまった部分に触れたいと思います。

 トットちゃんが出版されたのは私が大学進学を決めた年で、進学先が教育学系でしたから大学でも度々触れられていました。特に教育史の講義では、大正デモクラシーと教育の関係を扱うなかで重点的に触れられていた記憶があります。

 そのような記憶のなかにあったトットちゃんだったのですが、読み返してみて強く感じたのは全く昔の話ではないということでした。
 つまり、描かれる時代は戦前なのですが、切り取られる場面で立ち現れる教育の姿は、日本の学校の競争や同一性を基盤とする集団づくりと、それへの抵抗として立ち現れる子どもの人権を基盤とする集団づくりで、こうした構図は今も全く替わっていないからです。

 描かれるエピソードで後者の視点として特に注目したいのは、弱い者と強い者との出会いが数多く描かれていることです。
 その典型が泰明ちゃんとトットちゃんの出会いです。
 「大冒険」では、小児麻痺の泰明ちゃんをトットちゃんが大人たちに内緒で木登りをさせる場面が描かれています。本当に無謀なことに挑戦したのだと思います。そしてそれが無謀であったことを、トットちゃんはそれを実行する過程で感じ、そして泣きたくなります。
「こんなはずじゃなかった。私は木に泰明ちゃんを招待して、いろんなものを見せてあげたいと思ったのに…」と。
「でも、トットちゃんは、泣かなかった。もし、トットちゃんが泣いたら、泰明ちゃんも、きっと泣いちゃう、と思ったからだった」と。
 その後も、泰明ちゃんとのエピソードは続きます。そのなかで、トットちゃんはいろんなことを感じていきます。

 このように、子どもが弱い者に出会う時、そこには学びが溢れています。私たちは、そうした出会いから学びを引き出せるような環境を作り出せているのでしょうか。『窓際のトットちゃん』を読み返しながら、今の教育をその観点で問い直してみたいと感じました。

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◇◆ 教育時事アラカルト ◆◇

わいせつ教員防止法の制定
           教職教育開発センター教授  坂田 仰

 2021(令和3年)5月、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律(わいせつ教員防止法)が制定された。
 児童・生徒の尊厳を保持し、教員の性暴力等の防止等に関する施策を推進することを前面に掲げたわいせつ防止法の登場は、教員と子どもの信頼関係を前提としてきたこれまでの学校観に転換を迫るものと言えるだろう。

 わいせつ教員防止法の下、今後、文部科学大臣が「教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な指針」を策定することになる。
 そこには、わいせつ教員(特定免許状失効者)に関わるデータベースの構築や「児童生徒性暴力等対策連絡協議会(仮称)」の設置に関わる事項、早期発見のための措置として、学校や警察署への通報、専門家の協力を得て行う調査、児童生徒等の保護や支援、教員以外の学校で 働く者による性暴力等への対処等が盛り込まれる予定である。

 わいせつ教員防止法の目玉とも言える施策が、児童・生徒に対してわいせつ行為を働き、免許状が失効等した者に対して、再び免許を授与する場合の手続きである。
 周知のように、従来は、仮にわいせつ行為等を理由に懲戒免職となったとしても、最短3年での免許の再取得が可能であった。
 それをより厳格化し、新たに設けられる「都道府県教育職員免許状再授与審査会(仮称)」が、その後の事情を勘案し、免許を授与することが適当である場合に限ってこれを認めるとしている。

 いわゆるわいせつ教員が再び教壇に立つことに対しては保護者を中心に拒否反応が極めて強い。
 ならばいっそのこと再取得を禁止してしまえばよいのではないか。そういう批判が根強いものの、日本国憲法22条1項が保障する「職業選択の自由」との関連もあり、ことはそう簡単ではない。
 また、免許の再取得手続きをいくら厳格にしても、不服申し立ての訴訟を怖れて、都道府県教育職員免許状再授与審査会が萎縮してしまえば、排除効果を期待することは出来ない。
 結局のところ、教員の採用に当たって、任命権者や学校が可能な限りの情報を集め、しっかりと面接等を行い、わいせつ教員が紛れ込むことのないよう努力するしかないだろう。