+‥【目次】‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
(1)目白が丘だより
(2)「卒業生ネットワーク」拡充に向けて
(3)卒業生発 リレーエッセイ
(4)研究・教育の現場から
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□■– 目白が丘だより ————■□
<< 「多様性を認めあう」覚悟 >>
教職教育開発センター所長 清水睦美
カモミールnetマガジンが再開となりました。
センターでは、教職に関係する卒業生のネットワークを充実したいと考えており、メルマガ配信がセンターからの情報発信と同時に、卒業生のみなさんの声を集められる機会にしたいと考えております。
メルマガをお読みになられた感想や身近な話題などをお寄せいただければ大変うれしく思います。
さて、本学では去る4月20日に「『多様な女性』が共に学ぶエンパワーしあう女子大学を目指して」と題する「ダイバーシティ宣言」を発表しました。具体的には2024年4月入学者よりトランスジェンダー女性(法律上の性別(日本人では戸籍、外国人ではパスポートの表記)が女性以外で、性自認が女性である人)に受験資格を認めるという宣言です。
このために、宣言の中には、「トランスジェンダー女性のみならず、すべての学生の多様なアイデンティティを包摂することにつながると認識し」「これを契機に、多様な属性(性的指向・性自認、障害の有無、国籍や文化、宗教、信条、年齢等)のありように改めて目を向けなければなりません」と記されています。
興味深いのは、宣言の中には、さらに具体的な場面を想定して、「各自が『当たり前』とする世界は、これらの属性により異なり、ぶつかり合うこともあります。そのような時も、一つ一つ乗り越えていく知恵を絞ります。
また、各学生が『女性』の一人として、まだ自らを縛っている面がないか、学生同士や、教職員と学生間でたえず対等に語り合い、共に学び、力づけ合う環境を作っていきたいと考えています」とも記されています。
ここに示されるのは「多様性を認めあう」ということが必ずしも簡単ではないということへの自覚であり、そうだとしてもそこから逃げ出さず、個人と個人の対等な関係を作り出すことへの怯(ひる)まない覚悟が見え隠れします。
そして、本学で「教職」を目指す学生さんたちも、こうした風を感じながら大学で学び、「当たり前」を問い直す構えをもって、教職に就いてほしいと思っているところです。
□■– 「卒業生ネットワーク」拡充に向けて ————■□
<< 「卒業生懇談会」と今後の取組 >>
教職教育開発センター
教職教育開発センターは設立以来、全国で現職教員として活躍されている卒業生のネットワークづくりを進めており、すでに多くの方が卒業生ネットワーク「カモミールnet」に登録してくださっています。
昨年12月、初めての試みとして「卒業生懇談会」を開催し、東京都、神奈川県、横浜市、栃木県から学校や教育行政機関で管理職として活躍されている卒業生12名の方にお集まりいただきました。
清水センター所長が今後の事業として「卒業生が集い学ぶ場、大学と教育現場をつなぐ場のとしての現職教員研修」、「新卒者向け現職教員との交流会」等を提案したところ、皆さんから「本音をつたえ合うネットワークづくりをお手伝いしたい」、「若手教員が何でも相談できる場や人が必要。そのようなネットワークがあるとよい」「学校現場では産休育休代替教員や教育支援員が不足している。ネットワークを通して教員経験をもつ卒業生ともつながりたい」など、ネットワーク充実への期待と学生支援に積極的な意見が相次ぎました。
これを受け2022年1月、センターは「卒業生による教職に関する相談会」を企画しましたが、新型コロナウィルス感染者拡大の影響でやむなく開催を見送りました。
そこで、2022年度は「目白祭同日開催企画」として10月16日(日)、「教員を目指す学生と学校現場で活躍する卒業生の交流会」を予定しています。皆さんに「教員になりたい学生」や「教員になるか迷っている学生」たちの相談に乗っていただき、ネットワークの充実・発展につなげたいと考えます。創立120周年を迎え「森のキャンパス」として生まれ変わった母校に是非お越しください。詳細は、改めてお知らせします。
□■– 卒業生発リレーエッセイ ————■□
<< あなたがロールモデルです >>
羽中田彩記子
(元東京都公立小学校 統括校長、元日本女子大学家政学部児童学科特任教授、
家政学部食物学科1976年卒業)
算数科の指導法を研究している学校にたびたび伺う機会があります。日本女子大学の卒業生に出会うことも多々あり、教職で力を発揮している卒業生の姿を眩しく感じるとともに心からエールを送っています。
私は、大学卒業時には教職に就きませんでした。キュリー夫人のようになりたくて、大きな夢をもって大手企業の研究所に就職しました。しかし、当時、女性の仕事は限定され、私にとってロールモデルとなる女性の先輩は、会社では皆無でした。
将来が見えない不安を抱え現状に悩む中で、やりがいのある仕事を求めて思い切って教職に就いたのです。
そして、将来は自分もあのようになりたいと思える素敵な先輩にたくさん出会い、生き方をも学ぶことができました。
初めは、尊敬する周りの先生方の真似をしながら経験を積み、徐々に自分の型が出来上がったように思います。思い悩みながら就いた教職だからこそ、思い通りにはいかない目の前の子供たちと向き合い、思いを伝え、一緒に努力することで自らも成長できる手応えに、楽しさを得る毎日。駆け抜けている自分を懐かしく思い出します。
教育は、子供たちとのかかわりを通して未来を創る営みです。未来からの守護者である子どもを育てることが、未来を創ることにつながります。
教職にある者は、自分が生きるよりも少し先の未来を創り出す役割を担っているのです。
「子どもたちの心に明るい未来の灯を灯す教師」として未来創造に力を尽くしてください。と同時に、皆さんには、それぞれの立場や年代で、子供たちを含めた後輩にとって価値あるロールモデルと成り得ることを自覚し、その姿を示して欲しいと願っています。
成せるかどうかは自分次第。努力を怠らないで頂きたい。
広い視野で専門性を極め、品性と誇りをもって自らの可能性を生かせる環境を創り上げ、教育を通して一度しかない人生を楽しんでください。
□■– 研究・教育の現場から ————■□
<< 教員の熱中症対策を考える >>
教職教育開発センター教授 坂田 仰
今年も熱中症のシーズンが到来した。メディアによると、つい先日も体育のリレー中の小学生十数人が熱中症に罹患し、6人が病院に救急搬送される事故が発生している。毎年、同様の事故が発生しており、繰り返し注意喚起を行ってくことが必要である。
この点、文部科学省は、早くも4月28日、教育委員会等に宛てて「熱中症事故の防止について(依頼)」を発出している(令和4年4月28日付け4教参学第2号)。この依頼を参考にしつつ、熱中症の予防に向けた対策を講じていくことが期待される。
だが、ここで注意を要するのは、学校現場における熱中症対策が児童生徒向けに偏りすぎ、教員の熱中症対策が遅れている点である。
児童生徒の安全確保が学校の最重要課題であることは疑いない。
再任用教員が一般化し、一部学校においては教員の高齢化が指摘されている。また、心疾患や脳疾患、糖尿病等、熱中症のリスクファクターを抱えた教員も少なからず存在する。
そう考えると、児童生徒以上に教員の熱中症に罹患する可能性は高いとすら言える。にもかかわらず、労働安全衛生という観点から見た教員に対する熱中症対策は極めて貧弱である。
たとえば、公立中学校教員心疾患死亡事故公務外認定取消訴訟がある(東京地方裁判所判決令和2年2月17日)。
教頭に申告の上、炎天下、学校の草刈りに従事していた教員が死亡したことについて、教員の遺族が、当該教員は公務に起因して熱中症を発症し、熱中症に伴う急性心筋梗塞により死亡したと主張し、地方公務員災害補償法に基づく公務災害認定請求を行ったが、公務外認定処分を受けたため、その取消しを求め提訴した事案である。
事実認定によれば、当日のWBGT(暑さ指数)は29℃であったという。厚生労働省の「身体作業強度等に応じたWBGT基準値」によれば、草刈り等は中程度の作業(代謝率)であり、熱に順化していない人(作業する前の週に毎日熱にさらされていなかった人)にとってはWBGT26℃が基準値となっており、WBGT29℃は軽作業に限定されている。
しかもこの教員は、動脈硬化、糖尿病等のリスクファクターを有していたという。にもかかわらず、教頭は教員の申告を無条件に受け容れている。そこに教員に対する熱中症予防という意識は全く存在しなかったと言っても過言ではない。学校現場は、原点に立ち返り、今一度、教員の熱中症予防について真剣に考え直すべきであろう。