カモミールnetマガジン

2023年7月号

+‥【目次】‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
(1)目白が丘だより
(2)「卒業生ネットワーク」拡充に向けて
(3)卒業生発 リレーエッセイ
(4)研究・教育の現場から
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□■– 目白が丘だより ————■□
<< 夏場の運動指導と熱中症対策 -運動生理学、医学等の科学的知見- >>
            教職教育開発センター教授 坂田 仰

 本格的な熱中症のシーズンを迎えた。今年は特に暑い日が多く、最高気温が35℃を超える猛暑日が連日のように各地で観測されている。学校現場はそれこそ気が休まる日がない状態であろう。
 熱中症とは、「体温が上がり,体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かなくなったりして、体温の上昇やめまい、けいれん、頭痛などのさまざまな症状を起こす病気」の総称である(全日本病院協会HP)。夏場に運動を行う場合、指導にあたる教員等に熱中症の知識が不可欠であることは改めて指摘するまでもない。

 愛知県公立中学校熱中症事件では、その意識の低さが問題となっている(名古屋地方裁判所一宮支部判決平成19年 9月26日)。ハンドボール部の夏季練習中、倒れた部員が搬送先の病院で熱射病で死亡した事案である。
朝から気温が30度を超える中、ランニング等を繰り返させたばかりか、部員が倒れてから病院への搬送まで一時間以上も時間を要した事案である。遺族は、顧問教員、校長等、学校側に安全管理上の過失があったとして、損害賠償を求める訴訟を提起している。

 判決は、部活動が「学校教育の一環として行われているのであるから、部活動によって生じると予測される部員らの生命・身体等に対する危険を予防すべき注意義務を学校ないし部活動顧問を務める教諭が負っている」とした。
   そして、事故発生当時の状況を勘案し、顧問教員は、「部員が熱中症に罹患しないように防止すべき注意義務を負い、また、熱中症に罹患した場合には、応急処置を行う、救急車を要請するなど適切な措置をとるべき義務を負っていた」と指摘している。

 判決は、顧問教員がこの「注意義務を履行したか否かについては、①部活動が行われた環境、②暑熱馴化の有無、③練習内容、④休憩、給水の頻度や有無、⑤部活動顧問が認識し得た生徒の体力差、肥満であったか否かを含めた体格差、性格等の生徒の特性等を総合考慮して判断すべき」としている。

   何れも運動生理学や医学等、科学的知見に基づく観点であり、これら知識が顧問教員に不可欠であることを示唆するものといえる。


□■– 「卒業生ネットワーク」拡充に向けて ————■□
<< 学生と卒業生との「交流会」を10月に開催 >>
                  教職教育開発センター 

 センターは昨年度に引き続き、「教員を目指す学生と卒業生の交流会」(10月、「目白祭」同日開催)を開催します。
   実は、「学校はブラック職場」と言われる状況下でも、本学の教職志望学生はほとんど減少しておりません。
「交流会」では、学校現場で活躍されている皆様から教員志望の学生に直接、教職の楽しさや喜びを語っていただきたいと存じます。多くの意欲ある学生を学校現場に送り出すため、お力添えをお願いいたします。

【日時】2023年10月15日(日)13:00~15:00
【会場】調整中
【申し込み】申込フォームに入力・送信してください。
      https://forms.office.com/r/c2v09ETLrL


□■– 卒業生発リレーエッセイ ————■□
<< 皆さんに期待すること >>
        川田 尚子(日本女子大学教職教育開発センター客員研究員、
                                          家政学研究科通信教育課程家政学専攻修士課程 2022年修了)

 私は、社会人経験を経て、埼玉県立高校の英語科教員17年、指導主事4年、中・高教頭7年、県立高校校長7年、再任用として参与5年の間、学校教育に関ってきた。
  英語科教員時代は、「英語を嫌いになってほしくない、学びをあきらめてほしくない」という思いで、務めてきた。その後、管理職となり、この思いに加え、学校経営の柱としたのは次の3点である。

 第1の柱は、「生徒のためになっているか」である。学校は、生徒の「よさ」を引き出し、伸ばす教育活動の場であり、同時に生徒自身が自らの「よさ」に気づくきっかけを提供する場であるとした。
   協調学習による授業づくり、NIEの導入、企業やNPO 法人との連携によるSDGsの学びやキャリア教育の実施など、先生方の協力で推進できた。

 第2の柱は、「法規法令に則っているか」である。生徒や保護者、地域住民の学校観が多様化、複雑化したことや「いじめ防止対策推進法」の制定など、学校関連の法令が整備され、学校における法令遵守(スクール・コンプライアンス)に基づく学校運営・教育実践への社会的注目度が高まっている。
   実体験からも先生方には特に「安全配慮義務」という法的知識が必要であると考える。
   また、在学生の皆さんには「教育法規」は教員採用試験の受験のためだけでなく、教職に就いた皆さんを守るものとして学んでほしい。

 第3の柱は、「社会通念上、適切であるか」である。「学校の常識は、非常識である。」という言葉を聞く。社会の急速な変化や価値観の多様化が進む中、学校を中心とした考え方から抜けきらずに生徒や保護者、地域の方々に対応していないだろうか。
   学校評議員やPTA、保護者の皆さんの声を傾聴し、学校の説明責任を果たしていくことが強く求められている。

 男女平等の度合いを示す世界経済フォーラムのジェンダー・ギャップ指数2023年版によれば、教育分野において日本は、識字率や初等・中等教育の就学率は完全に男女平等だが、大学など高等教育機関への進学率は対男性比97.6%でわずかの差には見える。
   しかし、順位では146カ国中105位である。STEM分野に進む女性が少ないことは、具体的な格差の例である。

 先生は、児童・生徒の身近な大人のロールモデルである。文系、理系及び文理融合の学びを身に付けた本学卒業の先生方や教職希望の在学生こそその感化力をもって、将来、性別に関係なく、キャリア形成や待遇改善を図れる社会をつくる人づくりに貢献できると期待している。


     □■– 研究・教育の現場から ————■□
<< 「持続可能な社会の創り手」育成に向けて >>
           教育学科特任教授 松尾廣文

 ESD(Education for Sustainable Development)は、「持続可能な開発のための教育」と訳されています。

 中学校学習指導要領(2017)の前文では、「これからの学校には、(中略)一人一人の生徒が、自分のよさや可能性を認識するとともに、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、多様な人々と協働しながら様々な社会的変化を乗り越え、豊かな人生を切り拓き、[持続可能な社会の創り手] となることができるようにすることが求められる。」([ ] 部分筆者)と今後の教育の方向性を述べています。

 私が開発した道徳教材「南洋のキラ」は、「世代間の公平」「地域間の公平」「貧困削減」「環境の保全と回復」というESDに関する課題を有しています。

 この教材は、モラルジレンマと呼ばれ、コールバーグ(L・Kohlberg)の認知発達説に基づいて生まれたものです。

 コールバーグ理論では、認知的不均衡を生み出すジレンマ課題を繰り返し解決するという経験によって認知構造が質的に変換し、道徳性が発達すると考えられています。

 モラルジレンマ教材は、簡単に解決できない社会的課題を多く扱っています。それも、どちらの判断が正義でどちらかが悪、強い心対弱い心などという図式ではなく、簡単には解けない課題です。それだけに、児童・生徒たちの内的な動機づけは高まり、討論は弾みます。その討論の中から、個々により高い考えに到達させようとすることが、この授業のねらいとなります。

 「考え、議論する道徳」が各校で工夫されていると思います。是非、ESDの視点で作成された「南洋のキラ」の実践も検討してみてください。子どもたちの白熱した討論が期待できると思います。

   尚、「南洋のキラ」は正進社「道しるべ」3年に、光村図書「中学道徳3 きみがいちばんひかるとき」では「村長の決断」と改題され収録されています。