カモミールnetマガジン

2023年11月号

+‥【目次】‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
(1)目白が丘だより
(2)「卒業生ネットワーク」拡充に向けて
(3)卒業生発 リレーエッセイ
(4)研究・教育の現場から
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□■– 目白が丘だより ————■□

<<学校の統廃合を考える >>
          教職教育開発センター教授 坂田 仰

 少子高齢化の波が日本社会を襲っている。その影響を受けて,学校の統廃合が加速している。だが,そこには,必ずと言ってよいほど反対運動が存在する。

在校生とその保護者,卒業生,地域住民に至るまで,消えゆく学校に対する思いは複雑である。 
 
 では,廃校の決定に対し,特定の学校に通い続ける権利が認められる余地はあるのだろうか。この点について争われたのが,栃木県廃校処分取消請求訴訟である(宇都宮地方裁判所判決平成17年8月10日)。ある小学校を廃校とする内容を含む学校設置条例が成立したことを受けて,市教育委員会は,当該小学校に通学している児童らに対し,別の小学校を新たな通学校として指定した。

   これに対し,「特定の小学校で教育を受けさせる権利」に直接具体的な影響を与えるものであり,教育の自由等を侵害する違法な行政処分である等と主張し,処分の取消しと損害賠償を求めた訴訟である。

判決は,日本国憲法その他の法令により,保護者には,「その保護する児童らに市町村が設置する学校において法定年限の普通教育を受けさせる権利ないし利益」が存在するとした。

だが,「その権利ないし利益は,市町村等が社会生活上通学可能な範囲内に設置する学校で教育を受けさせることができるという限度で認められる」に過ぎないとする。そして,「具体的に特定の学校で教育を受けさせることまでをも含むものと解することはできない」と判示している。

 統廃合が行われる場合,学校の持つ地域的意義等を考慮し,地域住民や保護者に対し,十分な説明を行い,その理解,協力を得るよう努力すべきことは当然である。

だが,環境の変化を望む者は少なく,全関係者の合意を得ることは極めて困難と言える。説明責任を果たすべきことと,関係者の同意を得ることを切り離すしかない。

この場合,「意見を聴取する関係者の範囲や意見聴取の方法,程度については,計画を準備し遂行する行政関係者や計画を最終決定する立法者である議会等の裁量にゆだねられる」と考えることになろう。


□■– 「卒業生ネットワーク」拡充に向けて ————■□

<< 目白祭で教職を目指す学生と卒業生が交流 >>
                  教職教育開発センター 

 センターは10月15日(日)、「教員を目指す学生と学校現場で活躍する卒業生の交流会」(「目白祭」同日開催)を開催しました。2度目の開催となる今回は、卒業生19名と学生26名が交流しました。ベテラン教員に加え、今回は若手教員も数名参加してくださり、学生たちにとって、より身近な先輩方の話を聴く機会ともなりました。学生からは「教採のこと、志望校種のこと、教員としてのふるまいのことなど、漠然とした不安を取り除くことができる貴重な時間でした」等、教職への意欲の高まりが伺える感想が多く寄せられました。


□■– 卒業生発リレーエッセイ ————■□

<<偶然を味方にして、キャリアを形成>>
        宮﨑 真砂美(江東区立第二砂町小学校副校長)
              (家政学部児童学科通信教育課程1996年卒業)

 本校では5年生が「起業家教育」に取り組んでいます。大きく言えば「キャリア教育」です。皆さんは、どうして今この場所にいるのか不思議に思ったことはありませんか?
いくつかの職業を体験して、今は小学校に勤めている私は、たまにそんなことを考えています。ただの「偶然」なのかそれとも「縁」なのか?

 キャリア教育の世界では「計画された偶然性理論」という考え方があるそうです。次のような考え方です。
・個人のキャリアの多くは、予想していない偶発的なことで決定される。
・その予期しない偶然のできごとを味方にすることができた人が、よりよいキャリアを形成していく。

 偶然を味方にする行動指針とは、
・好奇心  何でも一度はチャレンジしてみる。
・柔軟性  素直な心で話を聞いてみる。受け入れてみる。
・冒険心  これがあるとリスクがあっても決断できる。
・持続性  これがないと成功しない。
・楽観性  すべての根っこにある将来への楽観性が行動を促す
・自己開示 自分が何に興味があるか、何を大切に思っているか、このようなことを開示しておくと、他者からの偶然の情報提供が得られる可能性が高まる。

 この話を聞いた後は、

 少し専門とは離れていても学会やセミナーには参加してみる。
 グループワークや懇親会では、他者の話に興味をもち、しっかり聞く。
 新しいプロジェクトに参加し、多少のリスクを背負っても自分のスキルを磨く。

 の3つを心がけるようにしています。

 たくさんのステージをもって、チャレンジできる人が豊かな人生を送っていけると考えています。
学校現場は本当に忙しく、大変なこともありますが、子供達との生活は「豊か」で「彩り」多い日々です。


  □■– 研究・教育の現場から ————■□

<< 子どもの視点をもって社会で活躍する人に >>
          児童学科特任教授 粂原 淳子 
2022年の合計特殊出生率は1.26となり、過去最低の水準となりました。

若者人口が急激に減少する2030年までに少子化トレンドを反転できなければ、日本は人口減少を食い止めることができなくなると見込まれ、岸田総理は「社会機能維持の瀬戸際」と危機感を表し、「次元の異なる少子化対策」を行うと発信しました。「こども未来戦略方針」がまとまり、その財源についての議論がニュースをにぎわせています

そんな中で「子どもを産もうと思わない」若者は増え続け、2023年のBIGLOBEの調査によれば、「子どもは欲しくない(既にいる場合は、もう欲しくない)」と答えた18歳から29歳の若者は約半数にのぼっています。

その原因として、経済的問題は無論大きいのですが、「自由がなくなる」「仕事と子育ての両立は難しい」などの理由も多く、自分の生き方を考える上で産まない選択をする人も多いようです。
気にかかったのは、「育てる自信がない」という理由がトップだったことです。子育てに自信をもって出産する人は、そう多くはないと思いますが、子育ての悩みと喜びを味わいながら、人として成長していく価値にも目を向けてくれるといいなと思います。

子ども家庭庁が目指す「こどもまんなか社会」の実現には、子どもの有無にかかわらず、社会全体の子育てへの理解と支援が必要です。教職課程で学ぶ学生には、子どもの視点をもって社会で活躍してほしいと思います。

ある学生が、保育者になりたいと思ったきっかけについて、「私が友達を泣かせてしまったとき、先生に叱られると思っていたら、その先生は泣いている子だけでなく、私の気持ちも優しく聞いてくれて、一緒に考えてくれました。私もそんな先生になりたいなと思ったんです。」と話してくれました。

子ども時代のよい思い出は、大人になっても心を温めてくれ、人への信頼感の基盤となっていきます。
自分が大切にされた、温かく受け止められたという思い出を、子どもに残してあげられる人になってほしいと願いつつ、保育者養成に尽力していきたいと思います。