カモミールnetマガジン

2024年7月号

+‥【目次】‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
(1)目白が丘だより
(2)「卒業生ネットワーク」拡充に向けて
(3)研究・教育の現場から
(4)センター活動報告
(5)編集後記
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+

□■– 目白が丘だより ————■□

<<自由研究作品の返還義務 >>
            教職教育開発センター教授 坂田 仰

 児童・生徒は、美術や図工の作品、夏休みの自由研究など、学校に様々なものを提出する。提出された作品等は、教員が採点し、その後、返還するのが一般的である。だが、かつては、返還せずに学校で処分することも少なくなかった。教員が転勤する際、学校の焼却炉が満杯になる等という話を耳にしたものである。
では、提出された作品等の返却義務は存在するのだろうか。この点が争われたのが、理科自由研究未返還訴訟である(神戸地方裁判所判決令和5年2月10日、大阪高等裁判所判決令和6年1月17日)。夏休みの課題として提出した作品を、学校が、紛失あるいは無断で処分したとし、これらの行為とその後の対応によって、精神的苦痛を被ったなどと主張して損害賠償の支払いを求めた事案である。
学校側は、生徒と学校との法律関係は、入学することで公の営造物の利用関係など公法的な法律関係が成立し、そこにおいては、学校と生徒を対等な当事者と位置付けるべきではなく、民法は適用されないとする。
その上で、「自由研究は、学校教育指導上の夏季休暇中の教育指導措置(行政契約)として位置づけられるもので、自由研究作品は、全生徒が、上記措置としての家庭学習の理科の課題として、担任・理科担当教員等を介して本件中学校に提出したもので、成績評価にも利用されるから、これは、生徒が、学校教育上の観点から無償提供したもので、本件各作品の所有権は、本件中学校に帰属」し、それを返却するか否かは担当教員の裁量に委ねられているなどと主張した。
しかし、一審判決は、作品の提出を以て当然所有権が学校側に移転するわけではなく、提出後も所有権は依然として生徒にあるとして、生徒側に軍配を上げた。これに対し、控訴審判決は、当該学校において、当時、提出された課題が一般的に返却されていたわけではないという実態に着目し、一審判決を覆した。義務教育課程においては、生徒にどのような課題の提出を求めるかは指導する教員が決め得るものであり、提出後の課題の取り扱いについても教員が指導上の見地から決めるべきものと解するのが妥当というのが最大の理由である。
 どちらの判決を支持するかは一先ず脇に置き、学校現場は、提出物の返却ミスが訴訟にまで発展するという状況に留意しなければならないだろう。

□■– 「卒業生ネットワーク」拡充に向けて ————■□

<< センターHP改修に伴う登録者情報に関するお願い >>
                   教職教育開発センター 

 当センターは6月、ホームぺージの改修に着手しました。卒業生の皆様の情報交換の場としてより見やすいホームページを目指しており、2024年10月1日(火)にリニューアル公開予定です。
 それに伴い、卒業生ネットワーク(カモミールnet)の登録者情報も、新システムに移行することになりました。セキュリティ強化と皆様の利便性向上がねらいです。新システムでは、登録者情報を管理する「マイページ」に、登録者ご自身がログインして情報の変更等ができるようになります。例えば、メールアドレス変更もすぐに行えます。ログイン方法等手続きについては、新システムへの移行後、順次ご連絡を差し上げます。
 つきましては、新システムへの登録者情報の移行作業をHP制作作業委託業者とともに本学個人情報保護指針に従って行います。もし、この登録者情報の新システムへの移行を望まれない方は、2024年8月5日までに、日本女子大学教職教育開発センター kyoshoku@fc.jwu.ac.jp まで、ご一報いただけますと幸いに存じます。
 なお、本件は7月初旬にメールあるいは文書でもお願いいたしましたが、ご不明なことやご質問等ございましたら遠慮なくお尋ねください。今後ともよろしくお願いいたします。  

<< 「教職を目指す学生と学校現場で活躍する卒業生の交流会」のご案内 >>
                            教職教育開発センター

 当センターは、2024年度も「教員を目指す学生と学校現場で活躍する卒業生の交流会」(目白祭同日開催イベント)を10月20日(日)に実施します。

 交流会は今回で3回目を迎えます。はじめは卒業生の皆様が参加してくださるかどうか不安でしたが、幼・小・中・高、教育行政機関で活躍されている卒業生の方々にお集まりいただいています。昨年度はベテラン・中堅の先生方に若手の先生方も加わり、学生たちにとって多様な視点から教職について考える良い機会となりました。ご多忙な中、母校の後輩のために駆けつけてくださる皆様の熱意に感謝申し上げます。
 今年も希望をもって学校現場飛び込んでいく学生たちを是非ご支援ください。皆様のご参加を待ちしております。

 〈日時〉2024年10月20日(日)13:00~15:00
〈場所〉日本女子大学 目白キャンパス 百201・202教室
 〈申込〉下記URLにアクセスして申込フォームに入力後、送信してください。
     申込URL:https://forms.office.com/r/kekBKghDSf

 
□■– 研究・教育の現場から ————■□

<<「児童学を学ぶ」ことを通して>>
             児童学科特任教授 粂原 淳子 
 
 若者の子育てに対する意識調査は多数ありますが、どの調査においても、将来子どもをもちたいと考える若者の減少が報告されています。
 私は「子ども家庭支援論」という授業を担当しています。
子育てをめぐる歴史的変遷や、親子を取り巻く環境や課題、社会的資源、国の方針、保育者としての役割などを学び、社会の創り手として子育て支援について考えていきます。
 近い将来の自分を意識しながら学ぶことになりますが、授業では、子育ての悩みへの共感的理解や児童虐待の問題、子どもの貧困問題、保護者のクレームへの対応なども学ぶ必要があり、それは学生に「子育ては大変」「保育の仕事は難しい」という印象をもたらします。
 また、身近な子育て支援にもチャレンジしてもらいます。
日常生活の中で、どのような子育て支援ができるか、相手の反応やその時の自分の気持ちについてレポートし、授業内で意見交換をします。
 「皆が身近にできる子育て支援を意識して行動に移すことで、解決できることもたくさんあるという考えがメンバーの賛同するところなった」「ささいなことでも支援できること、喜んでもらえることがたくさんあることを知った」「一人一人の意識が、子育てしづらい社会環境を改善する可能性があることを実感し、子育てに対する視野が広がった」など、子育て支援の当事者であることへの気付きが生まれます。
 最後の授業のレポートで、ある学生は、「本学の児童学科で、子どもの発達や幼児理解、児童文化、子育て支援からみた日本の構造等を知り、この学びは保育の現場だけでなく、社会に出たとき、母になったとき、また人として、様々なところで生きると感じている。」と記していました。
 多様な生き方が選択できる時代ではあるものの、子育てについては将来への希望的な展望が見えにくい社会です。だからこそ児童学科で、子どもをめぐる課題を様々な視座から総合的に学び、子どもの有無にかかわらず、次世代を育てる尊い営みに寄与してほしいと願います。