カモミールnetマガジン

2024年9月号

+‥【目次】‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
(1)目白が丘だより
(2)「卒業生ネットワーク」拡充に向けて
(3)研究・教育の現場から
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□■– 目白が丘だより ————■□

<< 災害、平和、教育に何ができるのか >>
            教職教育開発センター所長 清水 睦美

「教育に何ができるのか」という問いを立てることに、本当に困難を感じる今日この頃である。
最近では能登半島の豪雨があった。能登半島と言えば、今年の1月1日に大きな地震が起こり、地形の複雑さから復旧にとても時間がかかっていることが伝えられていた。ある報道番組が、9月1日の防災の日に因んで現地を取材しており、その中に「1月1日は新年を迎える初日ではなく、地震の日になってしまうんだなあと思います」という中学生のコメントが報道されていた。当事者ではない私たちとは異なる角度の感じ方に、こうした感性を持つ子どもたちとともに教育現場があるのだなと感じた。

 ところが、そこに豪雨災害が発生した。道路の寸断状況を示す地図は、地震の時に報道されていた地図に限りなく似ていて、地震後の道路補修がにわか作りのものであったことが容易に想像できた。かの地で生きる子どもたちは、地震に続く豪雨による災害をどんな意味づけをしていくのだろうかと思う一方で、災害に対する国の支援の薄さは、「そんな危険なところに暮らしているあなたたちが悪い」といった自己責任による物語を作り出さないとも限らないと感じたりもした。そんなときに浮かぶ「教育に何ができるのか」という問いは、教育が自己責任論に加担している部分もあるため、より一層答えに窮する。

 これと似たことを感じるのは「平和」の問題である。最近では、敵を想定して「日本もいかに軍備を整えるのか」という問いが、当然のように投げかけられている。それを考えないのは「社会状況の理解が乏しすぎる」と断罪されかねない雰囲気すらある。「平和なんて言っている人は、無知な人」といった印象だ。

 しかし、「ウクライナ」や「ガザ・パレスチナ」の状況を知れば知るほど、一度戦争に踏み出してしまったら、人の命が奪われ、人が暮らす社会が破壊されてしまうことは明らかである。ここで「教育に何ができるのか」という問いを立てるならば、軍備増強に向かうのではなく、いずれの国の人の命も奪われないように行動することに向かって何かをすることではないかと思う。

 10月5日(土)には、本学の「平和を求める日本女子大学有志の会」が「ガザ・パレスチナ問題を考える 映画上映会&講演」を開催する。大学も「教育に何ができるか」という難しい問いに対峙しながら、すべての人の命を最も大事なものとする思想ともに生きていく場でありたいと思うこの頃である。

〈ガザ・パレスチナ問題を考える 映画上映会&講演〉
 https://e3bf7ec1-86d4-4f70-9d87-7cde4c600b08.filesusr.com/ugd/99ea63_fe2b7e17e9f64b8398ea59ea20995782.pdf


□■– 「卒業生ネットワーク」拡充に向けて ————■□

<< センターHPをリニューアル公開 >>
                   教職教育開発センター 

 7月号でお知らせしました通り、当センターはHPの改修を進め、10月1日(火)にいよいよリニューアル公開いたします。
皆様には、卒業生ネットワーク「カモミールnet」登録情報の新システム移行に関してご承諾いただきありがとうございました。

リニューアル版は、見やすく、必要な情報を探しやすいように構成やデザインを刷新しました。また、皆様は「マイページ」にログインすれば、登録情報の確認・変更もご自身で行えるようになります。本日、別途、登録情報の確認に関するメールをお送りしておりますので、ご対応いただければ幸いに存じます。
ご不明なことやご質問等ございましたら遠慮なくお尋ねください。今後ともよろしくお願いいたします。  


<< 「教職を目指す学生と学校現場で活躍する卒業生の交流会」のご案内 >>
                    教職教育開発センター

「教員を目指す学生と学校現場で活躍する卒業生の交流会」(目白祭同日開催イベント)を10月20日(日)に実施します。会場も下記の通り決まりました。

現在、参加申込み受付中です。厳しい状況下でも希望をもって学校現場に飛び込んでいく学生たちの話に耳を傾けていただきたいと思います。皆様にとっても教職の魅力をアピールする良い機会です。ご参加をお待ちしています。

 〈日時〉2024年10月20日(日)13:00~15:00
〈場所〉日本女子大学 百年館 百201・202教室
 〈申込〉下記URLにアクセスして申込フォームに入力後、送信してください。
     申込URL:https://forms.office.com/r/kekBKghDSf


□■–卒業生 リレーエッセイ————■□

<<新任教員が大事にすべきこと>>
       田代ひなの(大島町立第二中学校、家政学部被服学科2024年3月卒業)     

 2024年4月1日、島の学校の先生になりました。
 私は大学卒業後、東京都教員採用で島嶼地域に赴任となり、現在は伊豆大島の中学校で家庭科教員をしています。島内には3つの中学校があり、いずれも全校生徒合わせて100人もない小規模校です。だからこそ、細やかな生徒の見取りが大事になってきます。
 
 さて、教員1年目、もうすぐ半年が経ちます。慣れない新生活・仕事では「とにかく頑張ろう」という気持ちで日々を過ごしてきました。良かった点、課題も見つかりました。
例えば、1学期の授業評価アンケートから「分からないところも何回も説明してくれるのでとても助かっています」と嬉しいコメントがありました。一方で、「授業中、真剣に取り組む雰囲気が出来ている」という項目は全体的に低い評価でしたので、規律を整えることを意識しています。例えば、不安をむやみに生徒に見せないことは大切だと感じています。また、発問後の沈黙に苦手意識があり教員がたくさん喋ってしまいがちなので、静寂を怖がらないことが一番の課題です。そんな私から新任の先生が大事にすべきだと考えることを2つ、伝えます。

1. 周りを頼る
先輩教員にわからないことは何でも聞いてね、と言われても分からないことばかり。人に聞くにも「自分は何がわかっているか、わからないことが何かも分からない」という状態も少なくありません。 それは新任では当然のことなので、些細なことでもきちんと人に聞くことは大切にしてください。

2.支えられ、支える
私は3年生の副担任として、担任の先生をどのように支え、学級運営に関わっていくかを考えて動いています。先輩の姿をよくみて、目に見えない気配り、子どもを想ってのサポートを自分で考えて、真似してみてください。

 教員を目指す後輩のみなさん、
楽しいこともしんどいこともありますが、「教員」の仕事ほどやりがいのある仕事はありません。ぜひ、一緒に頑張っていきましょう。


□■– 研究・教育の現場から ————■□

<<いまだからこそ、教職の魅力を伝えたい>>
             教育学科特任教授 久保寺 浩 

 2024年度の教員採用選考試験は、多くの自治体であと結果を待つという期待と不安の時期を迎えています。

8月27日には、中教審から「『令和の日本型学校教育』を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について」が答申されました。学校現場で必要な教員数が増加する中での教員採用選考受験者の減少は、学校教育が抱える多様な課題の状況や教員と他職種の働き方を比較した際の課題など様々な要因が指摘されています。

今年度の大学入学生は、2020年3月のコロナ禍での一斉休校を中学時代に経験している学年が中心です。コロナ禍での教育活動は、国や地方自治体が提供するガイドラインに沿って取り組まれました。感染症拡大防止対策として主に集団活動が制限され、GIGAスクール構想の急速な進展に見られたように個の学びの充実を中心として進められてきました。ダイナミックな教育活動が困難な状況下で中学・高校時代を過ごしてきた影響が懸念されるところです。教職課程を履修している本学入学生は、授業に取り組む様子など学びに向かう姿勢は前向きですが、教職と自分のキャリアをどのように捉えているか気になりました。

そこで、前期に担当した今年度入学生の「教職基礎論(2講座)」履修者約100名に、最初の授業において教職に対する意識を「教員免許取得が目的で教職は念頭にない」から「教職が第一希望」まで5段階で調査したところ、「教職が第一希望」「教職が大いにある」という教職への意識の高位層は40.8%でした。

 4か月後、幾つかの教職科目を履修した前期終了時点で同じ質問を行ったところ高位層は43.7%でした。教職への意識が年度当初より低く変容した者(4%)は「働くことの責任の大きさや過酷さを知ってしまった」「教師の大変さが今まで以上にわかった」と述べ、高く変容した者(21.4%)は「授業を通して、子どもの教育について考えたり、意見を交換したりする機会が増え、今まで他人事のように思っていた教育現場について興味を持つようになり教育に対する関心が高まった」「授業を通して教職の大変さ、負う義務、生徒との関わり方の注意点などを知って未来が具体的になり、強くなってみたいと考えられるようになった」と述べています。

教職についての知識や理解は、自身の経験知による限られた範囲のイメージで形成される傾向にあり、大学でのわずか4か月足らずの学びを通してでさえも、教員の実際の働き方、責任の重さ・苦労や魅力など具体的に知ることで意識の変容が見られます。

質の高い教師の確保が求められる中で、学校現場の状況を多面的な視点から正確に伝え、また、学生自らが直接体験することを通して教職という人づくりに携わる崇高な職の使命と魅力を、学生自らが考え感じとることができるような授業や実習等が重要であることを、私自身、改めて実感しています。